安藤ハザマは、3Dデータ制作などのノウハウを持つアールテックと共同で、現存しない彫刻欄間の3Dデータを残された2枚の古写真から復元する技術を開発した。試作として、名古屋城本丸御殿の欄間を3Dプリンタで出力することに成功したという。
安藤ハザマとアールテックは、井波彫刻協同組合の協力を得て、現物が消失してしまった彫刻欄間を表裏2枚の古写真から、3Dモデルを制作する技術を開発した。試作として、2018年6月8日に一般公開された名古屋城本丸御殿で復元された彫刻欄間の3Dモデルを作り、3Dプリンタで出力した。現在、この技術について、特許を出願中だという。
彫刻欄間をこれまで復元制作する場合は、専門の彫刻職人が写真のあおりやゆがみを補正した原寸大の下絵を作成し、それを木板に描き写した後、有識者の指導のもとに手作業で彫刻していた。そのため、職人・有識者・工事関係者が打ち合せを重ね、実際に試作品を作ることが必要であった。
一般的に、文化財や歴史的建造物などを復元する際は、日本各地にいる有識者が一堂に会して検討会を開催する必要もあるため、時間的な制約もあった。
安藤ハザマと、3Dモデリング技術に関するノウハウを持つアールテックは、今回の3D制作において、彫刻職人の意見も取り入れつつ、彫刻欄間の表裏2枚の古写真から3Dモデルを作り出す技術を開発。従来工法に比べて負担軽減や作業の効率化を図るとともに、より精密な復元が可能となった。これまでにも、現存する彫刻欄間を撮影して3Dモデル化した例はあったが、現物が存在しない彫刻欄間の古写真から3Dモデルを制作したのは初の試み。
この技術を使えば、現物そのものが失われ、数枚の写真だけしか残っていなくても、複雑な形状をした3Dモデルの制作が可能になる。完成した3Dモデルを3D-PDFデータ化し、E-Mailで送付すれば、離れた場所にいる複数の関係者と情報を共有して検討することにも利用できる。Web上の会議でも立体画像を各自が間近で見ながら、詳細な意見を交わすことも可能。形状の変更なども、実際の試作品を何度も作り直すことに比べて容易なため、作業の大幅な効率化につながる。
3D化にあたっては、3次元モデルの制作ノウハウを有するアールテックが全面協力。3Dプリンタは、3D Systems社「ProJet 860」「ProJet 3500HD」「ProJet 5500X」と、ストラタシス社「Objet500 Connex3」の4機種を使用。実物の欄間サイズは(H)約1.23×(W)2.67m(メートル)のところ、これの4分の1、5分の1、10分の1の各サイズを造形した。使用したマテリアル(素材)はフルカラー石こう粉体、UV硬化アクリル系樹脂。
3Dプリンタによる出力はあくまでモデルケースとして行った。実際の名古屋城本丸御殿の欄間復元は、彫刻職人が木彫りで復元している。
安藤ハザマでは、今後は、国内に多数存在する文化財・歴史的建造物の復元事業に、当技術を積極的に展開していくとしている。
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