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» 2018年05月07日 07時00分 公開

建築(家)のシンギュラリティ(3):建築学の再編成──情報技術がもたらす新たな建築教育の可能性 (4/4)

[中村健太郎 NPO法人モクチン企画/企画協力:太田知也 NPO法人bootopia,BUILT]
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建築情報学会──開かれたプラットフォームへ

N:最後は、少し別の角度から建築情報学会についてお伺いします。既に豊田さんは、ご自身のユニットであるnoizを2007年から共同主催されていますね。コンピュテーショナルな技術・発想を武器に、建築設計に留まらずファッションから都市まで、幅広い領域を対象に活動している建築事務所と認識しています。豊田さんご自身はnoizを、どのような場と位置付けて運営されているのでしょうか。

「ITRI Central Taiwan Innvation Campus Main Building 」 COLLABORATOR:Bio-Architecture Formosana PHOTO:阿野 太一

T:僕個人ではできることに限りがあるし、多様性が制限されてしまう。noizはそれを超えるために作ってきたチームというイメージですね。僕は、自分一人が形を決めるのではなく、間接的に条件をコントロールすることで生み出せるアウトプットに興味があるんです。noizというアノニマスな名前は、色んな人が集まって協働できる、既存の価値の外側を許容するプラットフォームとして、かつ固定的に存在するのではなく定常波の平衡状態のような在り方でいたいという思いでつけました。

 noizを立ち上げた当初は、どうしても安藤事務所出身の感覚は抜けきれなくて、やっぱり設計事務所なんだから設計をガリガリできる人を一から育てなくてはと思っていたんです。でも今は、建築設計者だけでなく、プログラマーや機械学習の専門家など、さまざまなバックグラウンドや技術を持つ人が、さまざまな経験レベルやかかわり方で集まった方が良いという考えに変わってきています。僕のやりたいことは、いろいろな側面で一定のゆるさやダイバーシティがあることを前提にせざるを得ないんだろうなと思います。

 これはSHoPでの経験が大きく影響していると思います。SHoPでは何か新しいツールがでたら、とりあえず2人くらいメンバーをアサインして好きに試させてみる。そうした“遊び”と思われるような活動が、長期的に見るとチームへの投資になると明確に理解していたんですね。こういう実践はnoizでも、2〜3割はクライアントがいない仕事を「遊んでみる」という言い方で続けています。「何かこういう技術あるからやってみよう」とか、「この形とアルゴリズムは相性がいいはずだから、作って形に落としてみよう」とか。こういうことを常にやっておくことが、何か機会が生じた時に新しい発想で、常識のちょっと外側を即実装するためのトレーニングになると思っています。

N:noizという場所自体が多様なアイデアを呼び込む場であり、豊田さんの理想とするクリエイションの条件を形作っているということですね。一方、そのような実践の場が既にある上で、さらに「建築情報学会」が必要であると考えられたのは何故なのでしょうか。

T:noizでは、小さいなりに社会の中でエッジを立てていこうと思っています。そのことによって特殊なことに興味があるメンバーを集めることができるし、特殊なことに興味があるクライアントとの仕事ができる。つまり「特殊解」を作る場所で在り続けないといけません。

 でも建築ってオーケストレーションというか、クライアントや施工者などさまざまな立場の人や組織と価値を共有できて初めて、レベルの高いものができあがるという側面もありますよね。僕が教育やリサーチ、実験の場を作ることに意識的なのは、社会に向けて意識を共有することで、僕らがやりたいこと、今社会のために価値があると信じることを実現する環境を作り出すためです。僕らだけが理解していてもダメなんですよ。一見ボランティアのようにみえるかもしれないけど、僕らが作りたいものを作るための土壌作りがまず必要なんです。

 そうしたときに必要なのは、正解のない世界をどんどん開拓できる個人と組織の力です。それぞれが好きなことを勝手にやって良くて、「正解」のプレッシャーのない開かれたプラットフォームや、それを補強する技術体系や理論が広く共有される必要があるんです。建築情報学会は、僕の中ではそれを実現するための手段であり、価値共有のためのわかりやすい旗印なんだと思っています。

N:なるほど「建築情報学会」を通して、コンピュテーショナル・デザインの可能性を広く社会と共有することが、逆説的にnoizのクリエイションにも生きてくるというわけですね。それはGSAPPが「ペーパーレス」という言葉を土台に作り出した思索の場を、「建築情報学」という言葉を用いて、現代の日本に再び呼び出す試みといえるかもしれませんね。たいへん刺激的なお話でした。豊田さん、今日はありがとうございました。

著者プロフィール

中村健太郎(なかむら・けんたろう)

1993年、大阪府生まれ。慶應義塾大学SFC卒。在学時は主に松川昌平研究室にて建築学におけるアルゴリズミック・デザインの可能性を研究。学生時代より批評とメディアのプロジェクトRhetoricaに携わる。現在はNPO法人モクチン企画にて建築設計・システム開発に従事。


企画協力

太田知也(おおた・ともや)

1992年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。修士(デザイン)。学生時代より批評とメディアのプロジェクトRhetoricaに携わる。現在はNPO法人bootopiaに所属し、島根県津和野町にてローカル・メディアの編集/デザインに従事。共著に水野大二郎+太田知也『FABが職業を変える──デザイナーからメタ・デザイナーへ』『FABに何が可能か──「つくりながら生きる」21世紀の野生の思考』(フィルムアート社、2013年)


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