大林組は古野電気と共同で、地盤変位を高頻度に自動解析し、突発的な斜面崩壊の危険性を判断する「マルチGNSS地盤変位計測システム」を開発した。全地球航法衛星システム(GNSS)を活用したシステムで、従来より素早く突発的な斜面崩壊などの前兆を捉えられる。
大林組は、船舶用電子機器メーカーの古野電気(兵庫県西宮市)と共同で、マルチGNSS(全地球航法衛星システム)を活用して地盤変位を高頻度に自動解析し、突発的な斜面崩壊の危険性を判断する「マルチGNSS地盤変位計測システム」を開発した。
山地や丘陵地が国土の約70%を占める日本には多くの斜面があり、これまでの道路や鉄道の建設により、多数の法面が造成されている。現在、この多くが更新時期を迎える一方で局地的な大雨が増加傾向にあることから、斜面崩壊などに対する予防保全の重要性が高まってきた。
従来のGNSS地盤変位計測システムは、GPSを利用して地盤の挙動を計測し、結果を解析することで斜面崩壊などの危険性を判断するが、解析頻度は60分に1回程度。さらに山間部などでは樹木などにより電波が遮断され、計測が一時的に途切れたり、場合によっては計測不能となったりする課題があった。
今回開発したマルチGNSS地盤変位計測システムは、複数の衛星システムからの電波を同時に受信し、高精度に地盤変位を解析する。また、解析頻度を高めたことで突発的な斜面崩壊などの前兆を捉えることが可能だ(図1)。
開発したシステムでは、高感度のマルチGNSSセンサーを採用したことで、GPSや日本の準天頂衛星システムをはじめ、各国の衛星システムからの電波を同時に受信できるようになった。また、新しい解析アルゴリズムの開発により、5分に1回の解析が可能となり、突発的な斜面崩壊などの前兆も捉えやすくなった。こうした前兆を素早く捉えることで、警報や退避指示、車両の通行禁止などの措置をより早く講じることができる。
また、従来のGNSSセンサーは既設電柱などから電力を供給するため、ケーブル配線に時間や手間がかかっていたが、今回開発したマルチGNSSセンサーには、無線LANによる通信やソーラーパネルとバッテリーを用いた自立電源を採用しているためケーブル配線が不要だ。
さらに、従来は計測会社が監視センターを設置し、その社員が解析結果を監視していたが、今回のシステムでは、独自に開発したソフトが無人で斜面崩壊などの危険性を判断するため、監視に人件費がかからない。その結果、GNSSセンサーの設置後、約2年間運用した場合の費用が従来の2分の1程度になる。
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