隈氏らが設計した新国立競技場は、木材を中心として設計されていることが特徴だが、隈氏は「鉄やコンクリートによる建築は20世紀で終わり、21世紀は『柔らかいものの時代』が来る。その際には木やカーボンが建材の中心になる」と強調する。
隈研吾氏:1954年横浜生まれ。1979年東京大学建築学科大学院修了。コロンビア大学客員研究員を経て、2001年より慶應義塾大学教授。2009年より東京大学教授。1997年「森舞台/登米町伝統芸能伝承館」で日本建築学会賞受賞、同年「水/ガラス」でアメリカ建築家協会ベネディクタス賞受賞。2002年「那珂川町馬頭広重美術館」をはじめとする木の建築でフィンランドよりスピリット・オブ・ネイチャー 国際木の建築賞受賞。2010年「根津美術館」で毎日芸術賞受賞。近作にサントリー美術館、根津美術館、歌舞伎座。大成建設、梓設計と共同で新国立競技場の設計・施工を担う。隈氏は「炭素繊維の強度に加え、小松精練の『カボコーマ』では、『曲げられる』ということが技術革新の意味でジャンプしたと考えている。施工の作業性や使いやすさに加え、高い自由度で耐震補強を行うことができる」と先進炭素繊維の可能性について述べている(図4)。
木材とカボコーマを組み合わせた複合材についても期待を寄せる。伝統文化財の耐震補強などでは、制約の大きな木造建築であることから耐震補強をなかなか行えないという事情もあるが「木材と炭素繊維の複合材では、木材の質感や軽さを損なわない形で、炭素繊維の強度を足し合わせることができる。木材とカーボンの組み合わせには大きな可能性を感じている」と隈氏は語る。
加えて「熊本地震では、在来木造建築の地震への弱さが明らかになった。木造建築の簡易な耐震補強は今後必要性が高まってくると見ている。木材と炭素繊維の複合材はその主役となる可能性がある」と隈氏は強調する(図5)。
先進繊維の可能性について隈氏は「現状では法制度が整っていないので使用できる領域は限られているが、まずファーボで実績を作ることができた。こうした実績を多く作っていけば、法制度も進んでくる。また、量産効果により素材価格も下がってくる。大きな可能性があると考えている」と述べている。
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