大林組が金属系の建設3Dプリンティング技術を開発 技研で大型モックアップ披露デジタルファブリケーション(2/3 ページ)

» 2025年05月21日 15時41分 公開
[石原忍BUILT]

既存のアーク溶接のノウハウが生かせるWAAM技術

 検討の中で、レーザー成型するPBFや金属と樹脂を混合するFDMなど、複数の製造方法が選択肢に挙がった。最終的には、金属同士をつなげるアーク溶接を応用し、溶接中に凝固した金属を積層する「WAAM技術(Wire-Arc Additive Manufacturing)」を採用した。WAAM技術は大型部材にも対応し、高速かつリーズナブルに部材を製造できる利点がある。しかし、3Dプリンタでは非鉄金属の適用例は多いが、建設工事で多用する炭素鋼は、効率的なスラグの除去や造形精度の確保が課題となった。

大林組 技術研究所 生産技術研究部 係長 中村允哉氏 大林組 技術研究所 生産技術研究部 係長 中村允哉氏

 大林組は、材料の組み合わせや溶接パラメーターを最適化し、スラグの生じない溶接法で、炭素鋼の部材を造形する手法を導き出した。

 発表に先立ち2025年5月19日に大林組 技術研究所で開催したモックアップ見学会で、技術研究所 生産技術研究部 係長 中村允哉氏は、「他の3DCPの製造方法に比べると施工精度や仕上がりはやや粗いが、アーク溶接を応用しているので既存工法のノウハウに倣(なら)って施工品質を標準化できる」と技術選定の理由を話す。

3Dプリンタの積層状況 ※光の点滅があります
3Dプリント後の断面 3Dプリント後の断面

サイズ制限した空間に点群を発生させ、点と点を結んで3Dモデルを生成

 3Dプリントのもとになるデータは、3D設計ソフトウェア「Rhinoceros」とビジュラルプログラミングソフトウェア「Grasshopper」のコンピュテーショナルデザインで生成した。

 設計段階では、製造可能サイズ、積層角度、表面仕上げや端部処理といったロボットアーム上の制限と、入熱処理のためにプリント速度の低下といった懸念材料があった。

 そのため、最初にサイズ制限を規定した空間を作り、その中で無数の点群を発生させた。次にプリント可能な点と点を結び、ネットワークを形成。屋根や座面の位置、荷重、支持点などの条件を設定し、構造的に不要な点と点のネットワークを独自のアルゴリズムで自動削除して、材料量も最適化。最後に応力を考慮して外径を決めた。3Dプリンティングのモデル作成でこれまでにないThe branchの設計プロセスは、特許を出願している。

サイズを制限した空間に点群を生成したコンピュテーショナルデザインの手法 サイズを制限した空間に点群を生成したコンピュテーショナルデザインの手法 提供:大林組

 施工段階では、3D設計モデルから各積層のパス=溶接の軌跡を抽出し、ロボットアームが読み取れるジョブファイルに変換。プリント時には、積層物の実寸を人の手で測ってフィードバックし、パスを微調整した。

 今回披露したモックアップの座面付きオブジェは、サイズを全30ピースに分割して製造。プリント中は、各層ができたら温度の計測、10層ごとに寸法の管理で寸法精度と品質を確保した。

 植物の花弁に似せた屋根にあたる部分は、再生樹脂3Dプリンタで出力。グラスファイバー入りポリカーボネートが材料で、再生樹脂ペレット2色を使い分けてグラデーションを表現している。

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