検討の中で、レーザー成型するPBFや金属と樹脂を混合するFDMなど、複数の製造方法が選択肢に挙がった。最終的には、金属同士をつなげるアーク溶接を応用し、溶接中に凝固した金属を積層する「WAAM技術(Wire-Arc Additive Manufacturing)」を採用した。WAAM技術は大型部材にも対応し、高速かつリーズナブルに部材を製造できる。しかし、3Dプリンタで非鉄金属の適用例は多いが、炭素鋼だと効率的なスラグの除去や造形精度の確保といった新たな課題が浮上した。
そのため、大林組は材料の組み合わせや溶接パラメーターを最適化し、スラグの生じない溶接で炭素鋼の部材を造形する手法を編み出した。
発表に先立ち、2025年5月19日に大林組 技術研究所で開催したモックアップ見学会で、技術研究所内の生産技術研究部で係長を務める中村允哉氏は、「他の製造方法に比べると施工精度や仕上がりはやや粗い。しかし、WAAM技術はアーク溶接の応用なので、既にあるノウハウを活用すれば施工品質を標準化できる」と技術選定の理由を明かした。
3Dプリントのもとになるデータは、3D設計ソフトウェア「Rhinoceros」とビジュラルプログラミングソフトウェア「Grasshopper」のコンピュテーショナルデザインで生成した。
設計段階では、製造可能サイズ、積層角度、表面仕上げや端部処理といったロボットアーム上の制限と、入熱処理のためにプリント速度の低下といった懸念材料があった。
そのため、最初にサイズを規定した空間を作り、その中で無数の点群を発生させた。次にプリント可能な点と点を結び、ネットワークを形成。屋根や座面の位置、荷重、支持点などの条件を設定し、構造的に不要な点と点のネットワークを独自のアルゴリズムで自動削除して、材料量も最適化。最後に応力を考慮して外径を決めた。3Dプリンティングのモデル作成でこれまでにない、The brænchの設計プロセスは特許を出願している。
施工段階では、3D設計モデルから各積層のパス=溶接の軌跡を抽出し、ロボットアームが読み取れるジョブファイルに変換。プリント時には、積層物の実寸を人の手で測ってフィードバックし、パスを微調整した。
今回披露したモックアップの座面付きオブジェは、サイズを全30ピースに分割して製造。プリント中は、各層ができたら温度の計測、10層ごとに寸法の管理で品質と精度を確保した。
植物の花弁に似せた屋根にあたる部分は、再生樹脂3Dプリンタで出力。グラスファイバー入りポリカーボネートが材料で、再生樹脂ペレット2色を使い分けてグラデーションを表現している。
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