建築の省エネは削減余地が少ない“乾いた雑巾” 切り札は「エコチューニング」と「AI」ファシリティマネジメント フォーラム2024(2/3 ページ)

» 2024年07月05日 12時11分 公開
[加藤泰朗BUILT]

成果連動型省エネサービスで既存建物の価値向上の可能性を探る

 第2部は、エス・ビー・エスの三輪氏が既存建物の設備の運用改善で、省エネを実現するサービス「エコチューニング」を解説した。

 エス・ビー・エスは、1969年創業のビル設備管理専門会社。業務の85%を建物の常駐設備管理業務が占める。

エス・ビー・エス 代表取締役社長 三輪直樹氏 エス・ビー・エス 代表取締役社長 三輪直樹氏

 三輪氏は、新たな付加的なサービスの展開を検討していた2017年に、大手ビルマネジメント会社で建物の統括管理責任者業務を長く務めた経験を持つ緑川道正氏(現在、エス・ビー・エスの技術顧問)と出会い、設備の運用改善で、建物の快適性を損なわずに省エネを実現する手法があることを知り、衝撃を受けたという。

 その後、緑川氏の協力を得ながら自社が管理する施設などでその手法を検証し、想像以上の成果が得られたことで、エコチューニング事業をスタートさせた。

緑川道正氏との出会い。エコチューニング事業へのチャレンジを決意 緑川道正氏との出会い。エコチューニング事業へのチャレンジを決意 出典:アドダイス、エス・ビー・エス発表資料

 エコチューニング事業は、商業施設だけでなく、大学施設でも効果を発揮した。2020年には、エネルギーチューニングのシンポジウムを開催するなど上々の出だしとなった。しかし、その普及に向けて積極的なアピールを展開する矢先に、新型コロナウイルス感染症の蔓延(まんえん)による緊急事態宣言が発令され、活動中断を余儀なくされる。

エコチューニングの主な手法 エコチューニングの主な手法 出典:アドダイス、エス・ビー・エス発表資料(緑川道正氏)

 コロナ禍が落ち着きを見せ始めた頃に活動を再開するも、当初はエコチューニングの普及は思ったほど進まなかった。三輪氏は、その理由として、3つの要因があったと振り返る。

 その1つは、「既に十分に省エネをしている」という意識。多くのビルオーナーは、クールビズなどの省エネ活動や照明LED化などの設備改修を実施済みで、「省エネの余地はない」と考えていた。

 また、「成果が保証できないものに費用をかけられない」との意見もみられた。エコチューニングには、高額の初期費用が必要で、導入しても省エネの成果が得られなかった場合は、誰が責任を取るのかを懸念する声が少なくなかった。

 3つ目は、「現状の管理は何をやっていたのか」の問題。これまでも適切に管理してきたのに、エコチューニングで大きな省エネの成果を得られると、これまで何をしていたのか責任を問われかねないという心理的な要因もネックだった。

 以上3つの要因を踏まえ、エス・ビー・エスが考案したのが、成果連動型エコチューニングのサービスだ。成果連動型とは、設備運転の運用を改善して達成したエネルギー削減分を金額に換算し、その一部をサービス使用料として支払う仕組み。成果が得られなかった場合は費用が発生しない。「やっても意味があるのか、成果が出るか出ないのか分からないと躊躇(ちゅうちょ)するなら、費用のことを気にせず、一度試してほしいと考えた」(三輪氏)。

成果連動型エコチューニングの概念 成果連動型エコチューニングの概念 出典:アドダイス、エス・ビー・エス発表資料

 三輪氏の思惑通り、成果連動型サービスを提案することで、徐々に契約件数が増えてきた。現在はビルマネジメント会社と、共同で顧客に提案するための業務提携を検討しているところだ。

 また、業務拡大の動きの中で、「新しい切り口が必要だったところ、JFMAからAIを省エネに活用する伊東氏を紹介された。AIの可能性を知り、当社の持つ省エネのノウハウと設備管理の経験と、AIを掛け合わせることで、より効果の高いサービスを提供できると感じた」(三輪氏)。

 最後に三輪氏は、現在、エス・ビー・エスとアドダイス、ITビジネスコンサルのSales Create、建築設計事務所のファシリティデザインラボ(FDL)の4社で、新サービスの創造を目指して定期的に検討している最中だと報告した。

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