鹿島建設は、2011年の東日本大震災以降に急増した自動ラック倉庫の事業継続(BCP)ニーズに応える目的で、積荷自体をおもりが揺れることによって建物の振動を抑制する制震装置「TMD(Tuned Mass Damper)」の“おもり”として利用する制震構法「Container Damper System(CDS)」を開発した。
鹿島建設は、倉庫の積み荷自体をTMDのおもりとして利用する新しい発想の制震構法「Container Damper System(CDS)」を開発した。屋根裏空間を利用した制震構法「Attic Damper System(ADS)」と併せ、自動ラック倉庫のBCPニーズに幅広く応える。
開発したCDSは、積み荷の重さに着目した新発想の制震構法。腕木と呼ばれる積み荷を支持する部材に開発した「制震スライダー」を設置することで、積み荷自体をTMDのおもりとして機能させ、効率的に地震エネルギーを吸収。積み荷を制震装置の一部として利用するため、おもりやオイルダンパなどを別途設置するスペースも不要だ。制震スライダーは、全部の荷室に設置する必要もなく、上部の1/3〜1/2に設置するだけで十分な機能を発揮するという。
制震スライダーは、2枚の鋼板を滑り材、コイルばね、オイルダンパで連結したシンプルな構造で、2本で一対となって積み荷を支える。下部の鋼板を腕木にねじで簡単に固定すれば、上部の鋼板が積み荷と一体になってスライドし、TMDの効果を発揮する。万一の事態のフェイルセーフ機能として、オイルダンパの油漏れ対策や積荷の過大な変形を防止するストッパーも備える。制震スライダーの製作には、センクシアの協力を得ている。
東日本大震災では、自動ラック倉庫の積み荷が落下してスタッカークレーン(自動搬送機)が運行できなくなり、倉庫機能が長期間停止する事態が多発。これを防ぐため、積み荷を脱落防止金具などで固定してしまうと、地震時にラック架構本体には設計荷重を上回る過大な力が加わり、ラックの基礎や柱などが損傷して、復旧時間とコストを要する。
2013年に開発したADSは、倉庫機能に影響を与えず、屋根裏空間に設置したオイルダンパで地震エネルギーを効率的に吸収し、震度6クラスの大地震まで対応可能な制震構法。特に新築物件に対しては大きなメリットがもたらされた一方で、屋根裏空間の余裕が十分でない既存改修への適用は制限されてしまっていた。
CDSは、ラックメーカーを問わず、新築物件・既存改修の双方に適用可能。制震スライダーはスタッカークレーンで搬送でき、特別な工具などを必要とせず簡易に取付けられるため、特に既存改修に最適とされる。
倉庫全体のパレット数×3〜6万円程度の費用、倉庫全体のパレット数×0.01〜0.02日程度の期間で制震化が実現する。メンテナンスも、目視点検程度で済む。
振動実験では、高性能3次元振動台「W-DECKER(ダブルデッカー)」を用いた実大試験体で、CDSの制震効果が確認された。なお、大地震時にも積み荷を確実にTMDのおもりとして機能させるため、固定ベルトなどによる荷崩れ防止措置との併用を推奨している。
鹿島建設では、自動ラック倉庫は、eコマースの拡大および倉庫従事者の省人化対策などにより、今後も需要が見込まれると見ている。新築または既存改修を問わず、自動ラック倉庫のBCP対策ニーズに応えるため、積極的に展開していくという。
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