産業技術総合研究所(産総研)は、建築現場で重労働を担うヒト型のロボット試作機「HRP-5P」を開発した。人間に近い動きを再現するため、多数の関節とロボット知能を搭載し、人の手を借りずにロボットだけで、石こうボードを運び、住宅内壁にビス打ちを行う。実用化は民間企業との連携も視野に入れ、数年以内を目指す。
産総研は、石こうボードのビス打ちを住宅内壁に行うヒト型ロボット試作機「HRP-5P」を開発した。建築現場などの大型構造物を組み立てる現場では、危険な重労働から解放する目的でロボットの活用が求められているが、作業環境の整備が難しく、現実には導入は進んでいない。人間型のロボットであれば、ヒトと類似した身体構造を保持するため、作業環境はそのままで人間の作業を代替できる。
産総研が公表したHRP-5Pは、最新のハードウェア技術を活用した身長182cm(センチ)、体重101kg(キロ)のヒューマノイドタイプのロボット。環境計測・物体認識、全身動作計画・制御、タスク記述・実行管理、高信頼システム化の各技術から成るロボット知能を搭載し、建築現場での代表的な重労働作業の“石こうボード壁面施工”を自律で遂行する。
産総研ではこれまで、川田工業(現・カワダロボティクス)をはじめ、複数の民間企業と協力してHRPシリーズを開発してきた。本田技研工業のP3をベースにした最初の「HRP-1」は、2足歩行技術を確立。2002年に発表した「HRP-2」は2足歩行に加え、転倒した状態から起き上がる動作を再現し、続く「HRP-3」では滑りやすい路面での歩行や遠隔操作で橋梁(きょうりょう)のボルトを締める作業を可能にした。
2011年から取り組んできた災害対応の人間型ロボットの研究では、HRP-2の身体能力(手足の長さや可動範囲、関節出力など)を向上させた「HRP-2改」で、環境の3次元計測に基づく、不整地歩行やバルブ回し作業の半自律実行を達成した。
しかしこれらのロボットでは、石こうボード施工のような作業にはまだ身体能力が不足しており、複雑な環境下で人間の運動を模倣するための関節数や関節の可動範囲が十分ではなかった。
今回公開されたHRP-5Pは、重労働をロボットだけで完結させるため、強靭な身体と高度な知能を兼ね備えている。
開発にあたっては、人間に近い動作を再現するため、自由に運動できる方向の数「自由度(=関節軸数)」を増設。首部2、腰部3、腕部各8、脚部各6、ハンド部各2の合計37の自由度を装着した。ハンド部を除く自由度数としては、HRPシリーズで最大数となっている。HRP-2改に比べると、腰に1、腕部付け根に1の自由度が追加されたことで、より人間に近い動きとなった。
複数の関節が集中する股関節部や腰関節部でも、最大限の可動範囲を確保したことで、作業員の動作を模擬し、石こうボード(1820×910×10mm、約11kg)やコンパネ・合板(1800×900×12mm、約13kg)のような大きな対象物を両腕で持ち運びができるようになった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.