ここまで見てきたように、ヒト・データ・キカイの関係はテクノロジーによって密接になりつつある。一方、最終的にはヒトがデータやキカイを制御するためのソフトウェア・テクノロジーの進歩も重要だ。
AIは今日のビジネス戦略に欠かせないキーワードになりつつあるが、建築建設分野での活用も進んでいる。例えば、Autodesk社の「A360」というでは「Design Graph」というベータ版のAI機能で部品検索が行える。検索用のメタデータを事前入力しなくても、部品の3D形状、分類階層や関係性を機械学習して検索候補が表示される仕組みだ。
また、AIは設計者が想定した形状パラメータ内で3Dモデルを生成するだけでなく、設計意図をパラメータとし、機能条件、材質種類、製作方法、性能基準、価格制限などを元に、無数の設計データを提供するジェネレーティブ・デザインの進歩も後押ししている。このようにAIテクノロジーを活用してデザインの決定プロセスを支援できるようなソフトウェアが今後ますます増えてくるだろう。
キカイとデータ、データとヒトをつなぐという面で重要なテクノロジーは「IoT=モノのインターネット」だ。スマートフォンはもちろん、設備機器、建設重機、家電などから情報を収集し、膨大なビッグデータをクラウド上で活用することで様々なシミュレーションやサービスが可能になるのだ。BIMをはじめとするICTはコンピューター上のバーチャルなデータであったが、比較的安価で小型のIoTセンシング・デバイスが普及してきたことで、建物竣工後のリアルなデータの収集ができるようになった。仮想空間と現実空間の情報をつなぐデータライフサイクルが実現するのだ。
IoTの分野は2020年までにグローバルGDPの16%を占めるという試算もある。IoTによる建物データ利用を拡張して、施設や資産の運用管理だけでなく、将来必要とされる建築ビジネスの予測ができるようになる。建物を1つのプロダクトとして捉え、価値を高めるために欠かせないテクノロジーとなっていくだろう。
今回は、ヒト・データ・キカイというキーワードでさまざまなテクノロジーについて駆け足で紹介した。こうしたテクノロジーは日々誕生し、進化している。全ての情報を理解し活用することはなかなか難しいが、まずは個人の関心、プロジェクトの必要、会社としての利益、あるいは業界全体の方向性に合わせて、個々のテクノロジーを組み合わせてイノベーションを起こしていくことが重要だ。
ICTは、従来の手法を単純に新しい技術に置き換えるような部分最適が目的ではなく、既存のフレームワークを一度解凍して、改善、革新し、さらに再凍結してプロセスを標準化、全体最適していくためのものだ。社内関係者はもちろんだが、社外のネットワークにおいても情報共有し、建築建設業界の未来に貢献するという視点が必要だろう。今求められているのは、ヒトとヒトをつなぐイノベーションを起こすことなのかもしれない。
オートデスクジャパンのAECセールスディベロップメントエグゼクティブ (SDE) である濱地和雄は、建築業界に対する長期的なビジョンを作り上げ、インダストリーリーダーを探訪することでBIMマンデートをドライブ。設計事務所や建設会社、教育研究機関、業界団体など幅広いソースから得た、充実したテクニカル、ビジネス、事業アイディアを促進することで高い評価を得ています。濱地はニューヨーク大学で建築学および都市設計の学士号を得ており、SDEの責務にないときは映画を鑑賞し、東京都内で家族と過ごしています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.