八潮事故で道路陥没対策の前提が崩壊? 東大・桑野教授が警鐘を鳴らす「“八潮後”の新常識」:第15回 IPA 圧入工学セミナー in 東京 2026(2)(1/3 ページ)

八潮市の道路陥没事故は、道路インフラ対策の前提を揺さぶる事象となった。国際圧入学会のセミナーで東京大学 生産技術研究所の桑野玲子氏は、年間約1万件に及ぶ道路陥没の実態を踏まえつつ、「浅層空洞」を中心とした従来の評価手法の限界と、深層空洞や周辺地盤まで視野に入れた新たな対策の必要性を語った。

» 2026年10月16日 10時43分 公開
[加藤泰朗,BUILT]

 国際圧入学会(IPA)は、地下インフラ老朽化の対策技術と課題をテーマにした「第15回 IPA圧入工学セミナー in 東京2026」を東京都渋谷区代々木の国立オリンピック記念青少年総合センターで2026年2月に開催した。

 講演4には、東京大学 生産技術研究所 教授 桑野玲子氏が登壇し、「埋設インフラの老朽化に伴う周辺地盤の空洞化の現状と課題」と題して講演した。

年1万件の道路陥没、大半は地表から2メートル以内の「浅層空洞」が原因

東京大学 生産技術研究所 教授 桑野玲子氏 東京大学 生産技術研究所 教授 桑野玲子氏 写真は全て筆者撮影

 桑野氏は、八潮市の道路陥没事故を「二度と起こしてはいけない事故」と強く訴えた。その上、今回の事故を転換点と捉え、「“八潮後”の道路陥没対策を考える必要がある」と提言した。

 国土交通省の資料によると、都市部の道路陥没は全国で年間約1万件に上る。大半は、天井部の深さが地表から2メートル未満の「浅層空洞」に起因する。

 一方、八潮市の道路陥没のような地表から2メートルより深い「深層空洞」は、事例が少なく、実用的な探査手法も乏しいため実態がつかめていない。ただし、桑野氏は「今後も同様の大規模陥没は起こりうる」と注意喚起した。

桑野氏は、空洞を便宜的に「浅層空洞」と「深層空洞」に分類 桑野氏は、空洞を便宜的に「浅層空洞」と「深層空洞」に分類 提供:国際圧入学会

 道路陥没の発生原因をみると、道路排水などの道路設備を起因とするものが多い。一方、都市部に限定すると、道路下に埋設された占用物件も目立ち、中でも大きな割合を占めるのが下水道由来の道路陥没だ。都市部では道路の下にさまざまなインフラ設備が輻輳(ふくそう)しており、「(インフラ間で)人工的に生成された地盤内の空洞が、陥没の要因となっている」と桑野氏は説明した。

2024年度の「全国」の道路陥没発生件数とその要因 2024年度の「全国」の道路陥没発生件数とその要因 提供:国際圧入学会
2024年度の「都市部」の道路陥没発生件数とその要因 2024年度の「都市部」の道路陥没発生件数とその要因 提供:国際圧入学会

 下水管路に起因する道路陥没に着目すると、国交省の資料では減少傾向にあるものの、2022年でも年間約2600件が発生。ほとんどは深さ50センチ未満の小規模な陥没だが、件数の多さをみれば、下水道老朽化が道路陥没の主要因の1つとなっているのは明らかだ。国土技術政策総合研究所(国総研)の資料でも、敷設後30年以上の管で道路陥没が発生しやすい傾向が示されている。

下水管路に起因した道路陥没件数の推移 下水管路に起因した道路陥没件数の推移 提供:国際圧入学会

 では、下水道管の何が陥没を引き起こす要因となっているのか。桑野氏は「軽微なクラックや段差、ずれといった一見小さな不具合でも、土砂流出のきっかけに成り得る」と指摘した。神奈川県藤沢市の開削調査では、空洞探査で異常が確認された箇所の路面を剥(は)がすと、そこに空洞が存在していた。原因は下水管の大きな破損ではなく、継ぎ手部の漏水や浸入水だった。

 桑野氏は、こうした漏水や浸入水のある箇所は、下水道の維持管理の現場では必ずしも珍しいものではないが、桑野氏は「わずかでも水が通る箇所があれば、地盤条件によっては、そこが土砂流出の起点にもなる点は認識しておく必要がある」と注意を促した。

下水管と道路陥没の相関関係。桑野氏は、他工事によって管が損傷したケースも一定数あるとし、「多数のインフラが地下に輻輳している状態が、こうした事象を引き起こすことは認識しておくべきだ」と提言 下水管と道路陥没の相関関係。桑野氏は、他工事によって管が損傷したケースも一定数あるとし、「多数のインフラが地下に輻輳している状態が、こうした事象を引き起こすことは認識しておくべきだ」と提言 提供:国際圧入学会

 一方で「下水管がいつどのような原因で損傷し、それがどう陥没につながったのかを正確に把握することは難しい」と語った。なぜなら、管の破損と陥没の発生にはタイムラグがあり、因果関係を特定しにくいからだ。

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