北海道電力が“火力発電所”の巡視点検で、「HoloLens 2」を活用したアプリを独自開発 技術承継の壁をDXで解消維持管理(1/3 ページ)

北海道電力とアバナードは、火力発電所における全く新しい巡視点検業務用アプリケーションを共同開発した。アプリ開発は、北海道電力が火力発電所でのDX推進として進めてきた取り組みの1つで、国内で初めて火力発電所の巡視点検業務にMR技術を採用した。

» 2022年12月23日 12時24分 公開
[柳井完司BUILT]

巡視点検技術の効率的な継承のためにDXを推進

 北海道電力は、北海道を中心に首都圏でも発電事業や電力小売事業を展開する1951年設立の電力会社。2021年度の販売電力量は、総計約220億キロワットで、従業員数は約5400人。発電設備として水力発電所から火力発電所、原子力発電所に地熱発電所や太陽光発電所も擁し、総合出力は8382メガワット(MW)に達する。

 主要な火力発電所としては、重油火力発電の知内発電所と伊達発電所、LNG火力発電の石狩湾新港発電所、石炭火力発電の砂川発電所と苫東厚真発電所の計5基で、その総出力は4634MWと同社総合出力の半分以上を占めている。今回、2022年夏に発表した巡視点検アプリは、苫東厚真発電所の現場環境下で開発され、実証実験を行ったもので、国内初の実運用もこの苫東厚真発電所で行われている。

北海道電力の会社概要 北海道電力の会社概要

 北海道電力に限らず、電力会社の最大の使命は、電力の安定供給にある。この使命を果たすには、電力設備のさまざまなトラブルを未然に防ぐことが欠かせない。そのため、同社では発電所設備の巡視点検を定期的に実施しているが、複雑かつ多岐にわたる発電所設備の異常を早い段階で効率的に発見するには、スタッフにも相応の現場経験とノウハウが求められる。

 しかし近年、発電所の現場では定年退職などによりベテラン技術者が急速に減少しており、必要な巡視点検技術を若手技術者へ早く継承させることが課題となっていた。従来は職場内研修などでのトレーニングを中心に行っていたが、より効率的・効果的な手法が強く求められていた。そこで有効策として打ち出されたのがDXの活用だった。

北海道電力の取り組み 北海道電力の取り組み

DX推進の一環としてMRの活用へ

 北海道電力は、道内企業として初めて経済産業省のDX認定を取得するなど、DX推進に積極的な企業であり、今回の課題に対してもその一環として、Mixed Reality(以下「MR」:複合現実)技術を用いた巡視点検用アプリケーションを開発した。

 MRとは3D映像やホログラムなどの仮想世界を現実世界に重ね合わせて表示し、仮想と現実が相互にリアルタイムで影響し合う空間を構築する技術。これにより、VRやARなどの仮想世界の3Dモデルを現実世界へ投影することが可能になる。

 北海道電力では、現実の火力発電所に重ね合わせる形で、ヴァーチャルの巡視ルートや点検内容を配置し、見える化した。そのため、MRデバイスを用い、現実空間に浮かび上がる巡視ルートや点検内容に沿って巡視点検を行うことで、自ずとその知識やノウハウを学べる。

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