「物流施設」については、日本のeコマースはEC化率で5.8%と成長を継続しているが、米国の8.9%と比べるとまだ低く、まだまだ成長の余地があり、倉庫需要は高い。いずれの業態でも、雇用不足のため、自動化装置やロボティクスの活用を積極的に取り入れ始め、対応できる先進的な大型物流施設のニーズは今後も拡大していく。
一方でドライバーは不足しており、全国の消費地に近い場所に物流の拠点を開設するなど、拠点戦略の見直しは急務となっている。地方中核都市の周辺でも、在庫容量を増やすため、物流センターを拡充する機運は高まり、こうした物流業界の状況が、大型物流施設への要求につながっている。
首都圏の大型マルチテナント型物流施設(Large multi-tenant logistics properties、LMT/延べ床面積1000坪以上の倉庫)の新規供給は、2018年、2019年と2年連続で過去最高を更新し、2年間で108万坪に達する。しかしeコマースを中心とした物流量の増大や、倉庫内作業の自動化ニーズなどを背景として、先進的な大型物流施設への需要は旺盛で、大量の施設供給の中にあっても、需給のバランスが崩れることは当面なさそうだ。
首都圏の市場詳細は、東京ベイ、外環道、国道16号、圏央道の4エリアで分析。このうち外環道は、2018年Q1に竣工した1物件を除いて、LMTの空き室は全くない状態。人気の理由は、eコマースのオペレーターが求める通勤に便利な都心に近く、企業にとっても周辺に住宅地があるため、雇用の確保が一定数見込めることがある。さらにeコマースの課題となっている“ラストワンマイル”の配送ニーズと合致することも重要なポイント。2020年末の賃料は、首都圏4エリアの中で最も高い上昇率を予想している。
逆に圏央道は、人材を確保しにくいことがネックとなり、大量供給の反動で空き室率は上昇し続け、2018年Q4で19.2%の見込み。2020年Q4時点では20.8%の見通し。ただ、全体的に悪いわけではなく、千葉ニュータウンや久喜市などはテナント決定率は高い。
首都圏全体では、2020年までの新規需要は年平均で45万坪と想定しており、大量供給による空室率の上昇は限定的。まとまった面積を確保するために、竣工前の物件を物色する傾向が強まり、立地や設備仕様が優れた物件のリーシングペースは加速している。
地方では、近畿圏、中部圏いずれも、高水準の供給は続くものの、供給過多になることはない。
CBREが独自に設定した繁華性が特に高い通りを示す「銀座ハイストリート」を対象にした「リテールマーケット市場」では、路面店舗の賃料は2020年末までの2年間で約8%上昇する見込み。金額ベースでは2017年Q3以降は、25.4万円/坪で横ばいが続いている。
eコマースの市場拡大が続き、実店舗の在り方にも変化がみられるという。商品の販売よりも、ショールームとしての機能を重視した店舗の出店が散見されている。ショールーム型店舗の多くは、歩行者量が多く、視認性の高いハイストリートに出店立地を限定。店舗を広告・宣伝の場と位置付けることで、広告宣伝費を出店費用に充当するケースもあり、そうした場合の賃料負担能力は高い。そのため、高額な好物件でもテナントが決定することは、これからも増えることが十分にあり得る。
現在、高級品の売り上げをけん引している訪日外国人は、今後も増加傾向にある。また、株価が大きく崩れない限り、国内富裕層の消費意欲も減退することはないとみている。ラグジュアリーブランドの多くは出店エリアをハイストリートに限定し、限られた募集物件に対して、ラグジュアリーブランド同士が競合することで、賃料が上昇する可能性は高い。
また、建築費の高騰で、建て替え計画を東京五輪後に延期した複数の物件オーナーが、ここに来て計画に着手し始めている動きもある。新規開発のリーシングが本格化することで、ラグジュアリーブランドの出店ニーズは今後さらに顕在化するとみている。
最後の「不動産投資マーケット」では、投資意欲は依然としてあるが、不動産価格の上昇を背景に投資家およびレンダーは慎重姿勢を強める。そのため、2019年の投資総額は3.2兆円と、2018年の見込み総額(約3.1兆円)とほぼ同水準にとどまると予想。
低金利環境が続く中、日本は他国に比較して高いスプレッドが確保できるため、海外投資家にとっても引き続き、魅力的な投資マーケットとなる。投資家の投資意欲も高いため、賃料にさらなる上昇余地のある地方オフィス物件への関心も高まることが期待される。
ただし、サイクル終盤に近いと考えられる状況では、レンダーと同様に投資家も価格上昇に対して慎重姿勢をより強める可能性があり、長期運用を目的として、キャピタルゲインよりもインカムゲインを重視する投資家がマーケットをけん引するとした。
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