竹中工務店は「薬師寺」の食堂(じきどう)復興事業にBIMを活用した。宮大工の伝統的な技法と現代技術である鉄骨造をBIMで融合し、木造寺院建築の優美な曲面屋根も再現した。BIMの導入はプロジェクト関係者の意思疎通や工期短縮にも役立ったという。
ユネスコの世界遺産に指定されている奈良市の「薬師寺」。その主要伽藍(がらん)の1つである「食堂(じきどう)」の復興事業が進行中だ。施工を担当している竹中工務店は、この事業にBIMを活用した。伝統的な木造建築の技法と鉄骨造の技術を、「設計施工一貫BIM」を通して融合し、木造寺院建築の曲面屋根を再現した。設計施工関係者間の意思疎通や工期の短縮にも役立ったという。
食堂は僧侶が食事をしたり修業をしたりする場で、古代寺院の主要な建物の1つ。薬師寺食堂は奈良時代前半に建てられたと考えられており、973年に焼失したとされている。復興事業は日本画家で東京芸大名誉教授の田渕俊夫氏が手掛ける阿弥陀浄土図を本尊とし、監修を奈良文化財研究所元所長の鈴木嘉吉氏、復元設計を文化財保存計画協会、内部設計を伊東豊雄建築設計事務所、構造・設備設計および実施設計と施工を竹中工務店が担当している。2015年3月からスタートし、2017年5月の竣工を予定している。
竹中工務店は、遺構調査や国宝薬師寺東塔など現存する同時期の建造物を参考に作成された復元図をもとに、堂宮大工が培ってきた作図技法である「規矩術(きくじゅつ)」をBIMモデルの作成プロセスに組み込みこんだ。これにより、寺院建築特有の曲面屋根の反りや各部材の細部までをBIMモデルに統合した。内部空間を確保するため主構造にはS造を採用しているが、BIMモデルを作成したことで、狭い軒の懐に鉄骨をおさめることができ、木造寺院建築ならではの曲面屋根を再現することができた。
竹中工務店の設計施工一貫BIMは、意匠・構造骨組・設備のそれぞれをモデル化し、これを利用しながら異なる立場や業種の担当者が集まり、合意形成や改良を進めていく。薬師寺食堂の復興事業では建築主、監修者、設計者、堂宮大工、鉄骨ファブリケーターなどの施工者協力会社がBIMモデルを活用しながら設計意図や施工確認などについて活発なコミュニケーションを行ったことで、品質や生産性向上にも大きな効果があったとしている。
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