環境との調和を主眼に置いた独創性溢れる外観がひと際目を引く、英国・スコットランドの美術館「V&A Dundee」、緑豊かな代々木の杜へ溶け込むように設計された「明治神宮ミュージアム」など、独自の哲学を持って、世界に2つと無い斬新な建築物を生み出し続けている隈研吾建築都市設計事務所――。「木」「石」「紙」など、その土地に根差した素材を採り入れ、国内外のコンペティションで常に話題をさらっている同事務所の設計室は、最近では建設業界でも急速に広がるDX(Digital Transformation)に先駆け、多様なデジタルツールをいち早く導入。最近では3次元の設計手法「パラメトリックデザイン」を試行し、これまで実現が困難だった複雑かつ精密な外観の建築物を多数創出している。世界的にも誰もが知る著名な設計の現場で、どのようなデジタル変革が起きているか裏側を探った。
ここ数年、デジタル化の波によって、2次元の図面が基本だった建築設計の領域でもデジタル変革の発展は目覚ましいものとなっている。今までは、具現化するのが難しいとされていた複雑な建築形状が、3Dモデリングソフトで実現するようになり、3Dプリンタや高機能の大判プリンタなど “デジタルファブリケーション”の進化も相まって、3次元データから立体で出力したり、Wi-Fi経由で手軽にインスタレーションの作品パーツそのものを、大判でデジタルプリントしたりすることも可能になった。
国内外で活躍の場を広げる隈研吾都市建築設計事務所も例外ではなく、最近の作例では、デジタルツールを存分に使いこなし、既存の概念を打ち破った唯一無二の建築物を次々と世に送り出している。その豊かな創造性を作品化するために不可欠なのが、日本HPのデジタル化されたテクノロジーだ。とくにCAD向けの多様な機能を搭載した大判プリンタHP DesignJetシリーズは、同事務所では20年以上前から愛用しており、世界各地の名建築は、このプリンタから生み出されてきたといっても過言ではない。
今回、2020年1月に最新のプリンタがテスト導入されたと聞き、日常の設計業務で日本HPの各種製品をどのように活用して、一つのアイデアを独創的な建築作品にまで昇華させているのか、事務所内で統括的な立場を務める「パートナー」の名城俊樹氏と、国内の建築業界では珍しいインハウスの「CGチーム」を率いる鈴木公雄氏及び松長知宏氏の両設計室長に聞いた。
現在、隈研吾都市建築設計事務所には、全世界で約280人、このうち東京だけでもおおよそ220人のスタッフを擁する。その半数近くは、中国、韓国をはじめ、イタリア、スペインなどの欧州圏と、国際色豊かな外国籍の設計者が在籍している。
組織としては、事務所を主宰する建築家・隈研吾氏のもとに、プロジェクトを複数統括するパートナーは20人、主たる設計業務を司(つかさど)る設計室長は25人ほど。ひとたびプロジェクトが始動すると、パートナーや設計室長の他に、イメージパースにディテールを加えるCGチーム、模型チーム、テキスタイルやサイン&グラフィックの各担当者が集結。初期の構想段階“スタディ”から、基本設計、模型製作、実施設計、施主へのプレゼンまで、それぞれのポジションで役割をこなし、一つの構造物を作り上げる。
ここ最近のプロジェクトでは、「パラメトリックデザイン」を駆使した複雑な意匠を提案することが増えてきている。パラメトリックデザインは、3Dモデリングソフト上で、設計者の意図する条件=パラメーター(数値変数)を設定して数値を変えていくことで、膨大なデザインのバリエーションを生み出すことができる3次元の設計手法。設計の要素を数値化することによって、設計者の想定を超えるランダムなパターンをいくつも自動生成したり、それらを設計者の意図通りに制御することもできたりするため、建築設計のさらなる可能性が拓けるとされている。
2019年9月に竣工したオーストラリア・シドニーの複合施設「The Exchange」はまさに、パラメトリックデザインを用いた象徴的な建物といえる。円柱状の建物を包むように、3Dモデリングソフト「Grasshopper」で円をランダムに描き、ぐるぐると巻いたパターンで構成された木製スクリーンが、一見して大都市の中に巨大な鳥の巣と見まがうファサードを構築している。
パビリオンの意匠設計でパラメトリックデザインを多用していると話す松長氏は、「こうした複雑なパターンをチェックする上で、必要なデジタルツールが日本HPの水性大判インクジェットプリンタです。大規模な建造物でプロダクトの段階に用いる場合には、高い精度が求められるため、確認用の大判プリントは重宝しています」と有用性を語る。
「The Exchangeは、パリ事務所のスタッフが担当していますが、フランスのオフィスでもHPの大判プリンタを利用していると聞いています。図面チェックに限らず、プロポーザルで提出するイメージパースやマンションのイメージ広告を入稿する前の校正時にも使用しており、今では、設計のどの場面でも無くてはならない存在です」。
東京の事務所では、HP DesignJetシリーズが市場に登場した2000年前後に即購入。今では、開発にも関わったカラープリント/スキャナー/コピーの機能を1台に集約した「HP DesignJet T830 MFP(マルチファンクションプリンタ) A1モデル」と、2020年1月に設置された最新のハイエンドモデル「HP DesignJet XL 3600 dr MFP A0モデル」など、合計4台のHP DesignJetシリーズが、国際的な建築設計の最前線で常時稼働している。
世の中では働き方改革の影響でペーパーレス化が声高に叫ばれてはいるが、プロジェクト全体を管理する名城氏は、建築設計の現場での「紙」の重要性を説く。
「モニターではどうしても、部分部分だけのチェックしかできません。建築物の全体を見渡したいときにも、画面上だけでは、拡大縮小できる分、スケール感が掴(つか)みにくく、限界があります。どうしても作図の基本となるA1サイズ位の大きさが必要ですが、現状では、そのクラスの図面を全体表示でき、細部も詳細に見られる高解像度のPCモニターは今のところありません。そのため紙での印刷は、スタディ途中で3Dモデルを模型化するときも含め、全ての設計プロセスで外せないものとなっています」(名城氏)。
MFPモデルのスキャナー機能については、「昔の案件をデータ化する以外にも、施工現場や海外から送られてくる図面をプリントして修正を入れ、スキャンし、データで送って、関係者間の合意形成を図るのにも役立っています。手書きで直感的に加筆できる利便性を考えれば、紙はまだまだ必要です」と話す。
2020年1月末、事務所のオープンスペースに設置されたHP DesignJet XL 3600 dr MFP A0モデルは、高生産かつインクの使用量を抑えランニングコストを低減させたHP DesignJetシリーズの最上位機種。最大の特長は、他のプリンタ専業メーカーには無い、PC開発もしているからこそ実現した社内ネットワークと図面データを強固に保護する“セキュリティ”機能。複数のプロジェクトが並行して常に動き、世間に公表する前の機密性が高い図面やCGのデータを大量に扱う設計事務所やゼネコンのオフィスには、最適な機種だ。
200メートル巻きのジャンボロールを1カ月で使い切った感想を名城氏は、「気に入ったのは、15.6インチのタッチスクリーン。押し間違いが無くなり、一目で分かる操作感です。出力速度は、A1サイズを横向きで出しても早く、インクジェットでありながら、30枚以上の結構な枚数でも、かなりのスピードでプリントされます。大量出力でもスタッカーを備えているので、いちいちプリンタの前で待っている必要が無く、その時間を他の業務に充てられるようになりました」と高評価。
松長氏は、A0サイズになったことについて、「国外のコンペでは、最終提出物にA0を求められることがよくあるため、これからは審査用のプレゼンボードに使う高解像度のCGパースを事前にプレビューで見て、妥当な解像度に落として送ることも想定されます。事務所内で一番活用している模型チームは、模型の下地として大判の図面を出力することが多いのですが、格段に色の再現性が上がったことに加えて、いままでA1の普通紙を2枚印刷してつなぎ合わせていたところ、A0なら1度で出せるため、煩雑な手間がかからなくなったと好印象です」。
近年では単に図面を刷るだけではなく、大判プリンタでインスタレーションを制作することも試みている。東京・京橋のLIXILギャラリーで、2019年7月20日〜9月24日に開催された「more than Reason 隈研吾+山口一郎(NF/サカナクション)+森永邦彦(ANREALAGE)展」では、建築家とミュージシャン、ファッションデザイナーがコラボレーションし、衣服が拡張していって、「空間」となり、さらにその場を包む「音」となるような空間を作り上げた。
ここでは洋服の型紙を大量にプリントするイメージで、糊しろやプリーツなどを大判プリンタによって、実寸で出力した型紙の上に、厚紙と建設現場で使う養生シートを貼り合わせ、森永氏が手掛けたスカートの上部につなげていった。
制作に携わった松長氏は、「通常は、デザイナーが施工までは直接関わりませんが、スタディで試行錯誤しているうちに、大判プリンタがあるから自分たちでも作れるよねという話になりました。結果、考案者が作品制作にまで携わったことで、スタディのプロセスがそのまま形になる他には無い面白さがもたらされました」と振り返る。
他の素材でのチャレンジでは、「パラメトリックデザインで作成した3Dモデルをベースに、モックアップを試作する際は、普通紙以外にも、テキスタイル(布)や合成紙、耐久性の高い紙にプリントして、そのまま切り貼りして作品化したりもしています。直感的に作れる手作業の方が早く安いですが、場合によっては、DMM.makeの出力サービスを介し、3Dプリンタ『HP Jet Fusion 4200』で、試作品の一部を出力することもあります」(松長氏)。
別のケースとして鈴木氏は、自身が関わった2018年12月に丸善雄松堂が主催したCGチームの業務内容を講演したイベントを紹介。会場では、普段なかなかフィーチャーされないCGチームにスポットを当て、実際に作成しながらも世に出なかったCGを、グラフィックモデルのHP DesignJet Zシリーズで不織布に出力して展示した。
松長氏と鈴木氏が属するCGチームでも、「日本HPのテクノロジーはもはや手放せないデジタルツールとなっています」と口を揃える。HP製ワークステーションは、事務所全体では、新旧含め200台以上を運用しているが、CGチームには先行して、ウルトラハイエンドモデルの「HP Z8 G4 Workstation」が6台入っている。
CGを表示するモニターも、23インチ以上のHP製ディスプレイがデスクに並ぶ。多くのスタッフがデュアルモニター構成で、一方の画面でモデルを表示、もう片方でメニューを表示させて使用している。ルーバーなどの細かい線が潰れていないか、原寸まで拡大して確認しているため、今後は、ソフトの4K対応によって、より精緻な画像表現が可能なプロフェッショナルモデルの買い足しも検討している。
なぜCGチームに高性能マシンが必要なのか、鈴木氏は「クライアント向けのプレゼンテーションや複数の設計事務所が競うコンペティションに提出するため、設計スタッフが作った3D建築モデルに対し、素材の質感や光の入り方、添景などのパーツを加えて完成予想のCGパースを作る“レンダリング”をメインに行っています。かつては、初期段階のスタディでもCGを作ることがありましたが、今は設計スタッフのほぼ全員がビジュアライゼーションソフトを扱え、設計者自身が3Dモデル化してしまうので、よりマシンに高負荷がかかる高精細な絵作りをする役割を担っています」と理由を説明する。
実際にレンダリングの作業中は、3ds MaxやRhinoceros、Adobe Creative Cloudなど、動かすのにスペックを要する複数のソフトを、長時間同時に立ち上げたまま作業をこなすことがほとんどだという。
鈴木氏は、日本HP製品に切り替えるきっかけとなった或る出来事を振り返る。「5年以上前、他社製品を使っていたときは熱暴走して、3時間ほどシャットダウンして作業できない事態が起きました。優れた冷却性能を向上させたモデルのHP Workstation Zシリーズにしてからは、安定したパフォーマンスを発揮しています。今はコンピュータグラフィックスの過渡期にあたり、CPUからGPUベースへと移り変わってきています。そういう意味でも、グラフィックボードやメモリの拡張性に優れていることは、長く使えることにもなります」と、マシンに寄せる信頼度の高さを語った。
斬新なデザイン手法や新しい素材への探求を続ける隈研吾建築都市設計事務所――。日本HPのテクノロジーによってもたらされる建築設計のデジタル変革で、これからも世界中で人々の心をつかむ作品が生み出されていくことに期待したい。
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提供:株式会社日本HP
アイティメディア営業企画/制作:BUILT 編集部/掲載内容有効期限:2020年4月17日
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