パナソニック エレクトリックワークス社と日亜化学工業は、それぞれの照明事業で培ってきた長年のノウハウを集約し、省電力かつ高輝度で自由な光の演出を実現するマイクロLEDを活用した次世代照明器具を開発した。
パナソニック エレクトリックワークス社と日亜化学工業は2024年3月7日、1ミリの1000分の1に当たる“マイクロメートル(μm)”に微細化したLED素子「マイクロLED」を基板に敷き詰めた次世代照明器具を発表した。1基だけで光の形状を自由自在に変える照明演出が可能で、施設やイベントの照明演出、誘導サインなどでの利用を見込んでおり、市場投入は2025年以降を予定している。
パナソニック エレクトリックワークス社と日亜化学工業が開発に踏み切った背景や照明演出で一般的に使われているプロジェクターとの違いなどを両社の技術担当者に聞いた。
マイクロLEDとは、髪の毛よりも小さな径の超小型LED素子だ。ベースとなる技術は日亜化学工業のLED光源「μPLS(micro Pixel Light Source)」で、元は自動車のヘッドランプ用デバイスだった。細かい配光可変やピンポイントのまぶしさ抑制、遠方へのスポット照射など、快適な運転をサポートする機能を有している。
2020年ごろ、車載分野で30年以上LED事業を展開してきた技術力にパナソニック エレクトリックワークス社が注目し、照明への活用展開を提案した。大量の消費電力やコンテンツ制作、大型機材による運用の難しさなどを抱えていたプロジェクターの課題を解決すべく、新しい照明器具の実用化を目指した。マイクロLED光源の設計は日亜化学工業、制御ソフトウェアや操作システム、器具の設計、照明デザインはパナソニック エレクトリックワークス社が担当した。
新製品の基板には、1平方ミリ当たり400個の間隔で約128×32ミリに1万6384個のマイクロLEDを配置し、大型ディスプレイと同等の高画質映像を出力できる。LED素子一つ一つをドイツの半導体メーカーInfineon Technologies(インフィニオン テクノロジーズ)と開発したASICの制御エンジンで個別駆動させることで、「光をともす」「光を動かす」「光に模様をつける」「光の文字を描画する」の4タイプの照射が可能になった。光の形を自由に変えたり動かしたりと、複雑な見せ方も可能だ。
日亜化学工業 第二部門 先進商品開発本部 マイクロPLS開発部 部長 黒田浩章氏は今回の次世代照明器具について、「マイクロLEDの技術を照明器具に転用するのは国内初の試み。高負荷環境でも安定して光るマイクロLED素子の技術と、ピクセル(素子)単位の制御に特化したASICの技術を完全一体化した。コンパクトでありながら、1粒の素子ごとに点灯を制御できる。点灯させるパターンにもよるが、明るさは実用環境において全光束で2000ルーメン(lm)以上を達成する」と胸を張る。
プロジェクターに対する優位性は何か。その答えは、1個のLEDパッケージで多様な演出が可能な汎用(はんよう)性の高さだ。建築物へのスポット照射、光の動きで導く案内誘導、サインや模様といった複雑な形状表現、オフィスのデスクごとに明るさを調整した天井照明も設置するだけで実現する。これまでのLED照明器具のように、細かい位置調整や照射テストの手間が省け、専用部材や工具も不要な省力化施工も魅力の一つだ。パナソニック エレクトリックワークス社 ソリューション開発本部 ライティング開発センター 課長 山内健太郎氏は、「設置や撤去に特別な工事は不要なので、まずは手に取って自由に光を作り、その楽しさを体験してもらいたい」と期待を寄せる。
ユーザーはスマートフォンやタブレット、PCなどで専用のWebアプリにアクセスして、“空間に光を描く”感覚で、どこをどのように照らすかを設定する。画面のキャンバスに光のパターンを指でなぞったり文字を書いたりと、直感的な操作で誰でも思い通りにクリエイティブな光の演出を作れる。
ソフトウェア開発を主導した山内氏は、「文字や図形はもちろん、水面のような演出や時間差で明滅、描いた形がうっすらと消えていくフェードといった複雑な表現もできる。コンテンツ制作が難しいと言われがちな光の演出で、自由度を高め、使いやすさを重視したUI/UXにした。光の動きや模様、形を自由自在にコントロールする“楽しさ”や“体験”につなげたい」と操作性へのこだわりを語る。
アプリで入力した光パターンは独自のデータ圧縮技術や信号処理を介して駆動信号を生成し、マイクロLED光源が瞬時に点灯する。操作にストレスを感じさせない、ユーザーの使い勝手を考慮した工夫を凝らしている。ゆくゆくは、生成AIを活用して演出パターンや光の形の自動生成も視野に入れている。
照度や消費電力性はプロジェクターを上回る。プロジェクターは光源が出力した光のうち、不要な光を内部の映像素子で除去して映像を投影するため多くの電力を消費してしまう。マイクロLED光源は、必要な箇所のLEDだけを点灯させるので点灯パターンに応じた最小限の電力消費だけで済む。山内氏は、「プロジェクターと比較して、同じ照度であれば消費電力は最大80%抑えられる。明るさは、一部のLEDだけを局所点灯すれば電力が集中し、約3〜4倍にアップする。環境負荷も軽減し、SDGsにも貢献するエコな照明器具と言える」と説明する。
多彩な光の表現が手軽に実現する次世代照明器具。山内氏は、「LED化や既存LED照明のリプレース需要ではなく、あくまで全く新しい照明製品として提案する。『多色を美麗に照射する』などプロジェクターにしかできない演出も多いので、市場を取り合うのではなく目的に応じて使い分けてもらいたい」と展望を語る。黒田氏も、「新しいLED技術によって光の演出の可能性を広げ、潜在的に眠っている新しいニーズを開拓したい」とうなずく。
今後は本格的な製品化を目指して、2024年内にさまざまなユースケースを想定した実証実験を重ねる。ユーザー目線の操作感や使い勝手、文字の視認性も検証し、製品のブラッシュアップを図り、2025年の発売を目標に定める。
導入先はホテルのエントランスやエレベーターホール、イベント会場といった、明かりとサインの両立が求められる場所を想定している。廊下やホールの誘導案内、季節に応じたおもてなし演出、美術館や博物館などのあえて照度を落とした効果的な明かりの展開も視野に入れている。山内氏は、「普段は通常の照明、イベント時には光の演出、災害時には避難誘導の矢印の照射など、シーンに応じて最適な光を選べるのが利点だ」と強調する。
黒田氏は、「マイクロLEDを活用した次世代照明器具で光を自在に操り、空間と人との関係を変える光の可能性を追求し、人々の生活が豊かになる新たな価値を提供したい」と言葉を結んだ。
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提供:パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社
アイティメディア営業企画/制作:BUILT 編集部/掲載内容有効期限:2024年4月16日