竹中工務店の建築向け“金属3Dプリンタ製接合部”に極めて有効、アルテアの構造解析ソフトウェアが果たす役割建築3Dプリント

建築設計の分野では、これまでの模型製作だけではなく、部材そのものを出力する3Dプリンタが注目を集めている。その際、重要となるのが適切な出力データをスピーディーに用意することだ。アルテアはこの分野で高度な解析ソリューションを提供し、業務の効率化に貢献している。

» 2022年09月28日 10時00分 公開
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 建築分野で3Dプリンタを使うには、想定される荷重や拘束条件、実現すべき強度や特性などの制約条件の下で、最適な材料の配置(レイアウト)を導き出す、多角的な検討と複雑な計算が必要になる。「トポロジー最適化」と呼ばれる処理に、竹中工務店はアルテアエンジニアリング(以下、アルテア)の解析ソリューションを採用した。

直感的な操作性とアウトプットを意識した「Altair Inspire」

 竹中工務店は、建築領域での3Dプリンタの有用性に早くから注目し、研究開発を進めてきた。オランダのスタートアップ企業MX3D製の金属3Dプリンタを使った今までにはない自由なデザインの接合部の開発もその1つ。金属3Dプリンタの出力データを解析/検証する際に、アルテアの構造最適化ソフトウェア「Altair Inspire」を導入した。

トポロジー最適化と金属3Dプリンタによる自由形状接合部 提供:竹中工務店

 アルテアの解析ソリューションは、建築の設計分野での注目も高く、各社で導入への動きが活性化しているが、それにはいくつかの理由があるようだ。

竹中工務店の技術研究所に所属する木下拓也氏

 竹中工務店の技術研究所で構造系シミュレーション解析を専門とし、現在はカリフォルニア大学バークレー校に留学している木下拓也氏は、当時金属3Dプリンタ製接合部の開発リーダーとしてInspireを採用した。木下氏は、Inspireの利点は、GUIをはじめ、直感的な操作性による使いやすさもさることながら、アウトプットまでを見越した機能群も優れていると強調する。「Inspireは、意匠デザインの仕様を含め、トポロジー最適化した結果から、アウトプットまでが考慮されていて、それぞれに必要な機能が用意されている。他に無い機能を豊富に備えていたのが、決め手となった」(木下氏)。

 木下氏が指摘するInspireの機能の1つに「PolyNURBS(ポリナーブス)」がある。PolyNURBSは、トポロジー最適化で得られたデータを、3次元形状として捉え直す処理で、単純なポリゴンで表現されていた立体の表面がスムーズな曲面に変換され、その後の工程が楽になる。

Inspireによるトポロジー最適化で得られた結果をもとにPolyNURBS機能で滑らかな3Dモデルを作成 提供:アルテアエンジニアリング

 トポロジー最適化を行っただけのデータは、小さな三角形パッチが連なったような表面をもつ立体として表現されている。一般的なソフトウェアでスムージングの処理をしても三角形パッチが細かくなるだけで、データ自体が重くなり、3Dプリンタで主に扱うSTL形式への変換や3Dプリンタ側でもハンドリングが悪い。この点、Inspireではトポロジー最適化から、PolyNURBSによる曲面化までをシームレスに行えるので、設計作業の効率化に貢献する。

プロセス全体をカバーし、作業ステップごとの“手戻り”を回避

 設計の初期段階でInspireを活用すると、設計プロセス全体の効率も上がる。意匠から、構造、施工までのプロセス全体を俯瞰して、プロセスの先々に対して起こりうる事柄を把握できるからだ。当然ながら、前段階で不具合を発見すれば、手戻りもなくなる。

 金属3Dプリンタ製接合部のプロジェクトで考えると、この利点は明らかだ。従来の設計プロセスでは、例えば大屋根を支える支柱接合部を意匠設計で構想しても、その後の構造設計や施工の時点で実現が難しいと判断されてしまうことがある。溶接やボルト留めによる支柱の接合では、施工者や協力会社から「この形状は現実的ではない」「この順番では溶接できない」といった注文が発生することは珍しくない。こうした事態は、手戻りを生み、設計者/施工者双方の負担を増やしてしまう。

 また、鋳物で接合部を作る場合は外注となり、設計の初期段階では、外注先や製造に必要な費用(見積もり額)が把握しづらいという課題もある。その結果、設計後に予算の兼ね合いや納期内ではできないことが判明し、設計変更が必要になったり、意匠性を損なう懸念もある。

ボルト留めや溶接による重く精彩を欠く接合部から、最小重量で自由な形状を持つ新しい接合部へ 提供:竹中工務店

 Inspireを3DCADソフトウェアと連携させれば、全体架構計画と3Dプリント可能な接合部の計画を一貫してイメージできるため、これまでのような設計後の手戻りが発生しにくい。さらに、トポロジー最適化により、強度や安全性を確実に担保した上で、設計者が意図した通りのデザインが実現できる。木下氏は、Inspireを活用すれば、設計者と施工者がプロジェクトの早い段階で共通の最終プロダクトをイメージできると口にする。設計初期に最終製品のデザインを可視化できるので、設計者はもとより、クライアントに対する訴求も高まる。

意匠と構造をつなぎ、設計の自由度を広げるInspire

 木下氏がInspireの導入を決めたきっかけとなったのは、3Dプリンタと密に連動するトポロジー最適化の解析ソフトを探す過程で、アルテアのWebサイトにアクセスしたことだ。アルテアがSolidThinkingを買収した当時から3DモデラーのEvolveに興味があったのと同時に、「Altair OptiStruct」のトポロジー最適化技術の優秀さも知っていた。Webサイト上には、その2つが融合したInspireのデモ動画が掲載されており、木下氏は「建築主やデザイナーにも訴求できるトポロジー最適化ツールであり、操作性も良い」との印象を抱いた。ちなみにInspireを導入した際は、代理店のテラバイトを介した導入だったが、「サポートがいらないほどに、使い勝手がよくチュートリアルも充実していた」とのこと。

 Inspireは、今では竹中工務店 各本支店の設計部門でも利用され、接合部に留まらず、さまざまなプロジェクトの構想フェーズでInspireのトポロジー最適化が使われるケースも出てきている。木下氏は、Inspireのメリットについて、「粒度の高い(手戻りのない)デザインが可能になり、デザイン試行の回数を飛躍的に増やすことが可能になった」とする。

建物外壁の架構検討にInspireのトポロジー最適化を利用した例 提供:竹中工務店

 現時点では、建築分野における金属3Dプリンタの利用には、建築基準法の材料規定に代表されるマテリアル検証など、対処すべき課題もまだ存在する。竹中工務店では、こうした先進技術が抱える課題を早期解決するため、積極的に社外パートナーと協業する「オープンイノベーション」というアプローチを採っている。金属3Dプリンタという革新技術の建設適用事例をスピード感を持って社会に示すべく、その先導役として開発を続けていく考えだ。

 建築分野での金属3Dプリンタの利用はまだスタートを切ったばかりだが、Inspireのトポロジー最適化によって、意匠設計者と構造設計者が連携することで設計プロセスの変革がもたらされ、これまでに見たことのない建築物が創造できることが期待される。

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提供:アルテアエンジニアリング株式会社
アイティメディア営業企画/制作:BUILT 編集部/掲載内容有効期限:2022年10月27日