北海道の石狩湾を北に見て、海岸線からほんの数百メートルの地に本社を構える建設コンサルタントのHRS。同社は建設業界のなかでもIT化に先進的に取り組む企業として知る人ぞ知る存在だ。ただし、約10年をかけてIT活用を進める途上、同社はストレージにまつわる課題に直面。今後の事業に支障を来たしかねない状況に陥ったという。その打開に向け採用したのが、SeagateのRAIDストレージシステム「Exos X 2U12」と、拡張エンクロージャ「Exos E 2U12」。同社が両製品に着目した理由とは?問題はどう解消されたのだろうか?
少子高齢化や新型コロナ対応などを狙いに建設業界でもIT活用がいよいよ本格化するなかで、一足先に成果を収めた企業も存在する。その1社が82人の従業員を抱える北海道・小樽の建設コンサルタント会社HRSだ。
HRSは1971年の創業。以来、北海道開発の進展を追い風に道路や交差点、橋梁(きょうりょう)の設計、法面や軟弱地盤などの調査など、土木を軸に事業を多角化してきた。そんな同社がIT活用を本格化させたのは、少子高齢化の問題が指摘され始めた約10年前のことだ。同社のIT活用を一貫して牽引(けんいん)し、現在は代表取締役社長を務める鈴木貴文氏は、「当時はIT化がほとんど進んでおらず、コンサルタント会社として多様な情報を扱いながら、社内共有も一筋縄にはいかない状況にありました」と振り返る。
その打開、さらには長引く不況が北海道開発に暗い影を落とす中での新たな成長の足掛かりとして、鈴木氏は「業務の効率化と迅速化」を狙いに情報共有ツールの導入を決断。これを出発点にIT化の必要性を社内に訴え、従業員の理解を取り付けつつ業務アプリを拡充することで、「今で言うDXを推進してきました」(鈴木氏)。
成果の一端は、新型コロナ禍でのリモートワークの導入からも見て取れる。環境整備に手間取る中小企業も多いが、同社では広大な北海道での社員の直行直帰のためのリモートアクセスと情報共有ツールを組み合わせた仕組みを以前から整備。これを応用し、緊急事態宣言の発令直後から業務をリモートワークに移行させている。
GPSや3次元レーザー、ドローンによる測量、地理情報(GIS)システムの企画/構築など、ITは事業領域の拡大にも大いに貢献。「ドローン利用により、測量も効率的かつ迅速に行えるようになっています。また、VRゴーグルによる会議室で現地の状況を確認できる新たな仕組みは、顧客満足度の向上にも大いに役立っています」と鈴木氏は笑顔で語る。創業から約50年を経過した近年の年間売上高は、8〜9億円で推移しているという。
ただし、こうした中で浮上することになったシステム課題の1つが、データの格納先となるストレージ管理の煩雑さだ。
HRSでのIT化の特徴が、システム環境の全てを鈴木氏をはじめとする社内人材の知見をもとに自ら整備している点だ。「外注するとそれだけコストがかさみ、将来的なベンダーロックインのリスクも生じます。それらの回避のために、汎用的な製品と技術、知見を組み合わせての自前での整備を基本としています」と鈴木氏は説明する。
ただし、用途やその時々のトレンドを踏まえた段階的な拡張の結果、同社のシステムはアプリごとに異なるOSの仮想サーバが物理サーバ上に混在し、ストレージもファイルサーバなどのNASや、各端末からローカルディスクとして認識されるSANが入り交じるという、極めて複雑な構成と化していたのだという。
こうした状況にあって、特に手を焼くようになったのがSANの管理だ。サーバごとの容量や使用量を監視しつつ、不足が見込まれる場合には将来的なデータ増を織り込み、追加した物理ストレージ容量をコントローラーにより、各アプリへ論理的に割り当てる取り組みとなるが、複雑な構成の中に業務アプリが数十も存在するとなれば、その手間は推して知るべしである。
「当社は5人のスタッフでシステムを管理し、各人の業務は多忙を極めます。そうした体制下で、ドローン利用を機に、従来は年間2〜3TBだったデータの増加ペースが5TBに倍増しており、このままではストレージの追加作業だけでも多大な時間を取られ、他の運用に手が回らなくなることでシステム、ひいては業務に影響が出かねないと危惧するようになりました」(鈴木氏)。
実は同社ではリモートワークへの移行を機に、社内ネットワークを1Gbpsから10Gbpsに増速したものの、ストレージの中には1GbpsのNASや低速なコンシューマー向けHDDも混用されており、ネットワークの速度を生かせなかった。つまり、データを流す“土管”の能力を“排水”がはるかに下回る状態だったということだ。
「どんなに優れたアプリでも、ストレージからのデータ転送速度が遅ければ処理もそれだけ遅れ、ユーザーの業務効率も低下してしまいます。DXによりデータそのもの、さらにそれを使うアプリ増もほぼ確実なため、ストレージ性能は看過できない課題となりつつありました」(鈴木氏)。
こうした危機意識にあって、鈴木氏が打開策の検討に乗り出したのは2021年11月のことである。目指したのは従来を踏襲するオンプレミスでのデータ管理だ。
建設業界でもクラウド利用が広がるなか、データを社外で管理する企業も増えている。だが、東日本大震災、さらに北海道胆振東部地震の経験から、鈴木氏はこのアプローチに否定的だ。
「前者ではWANが停止し、当時利用していたクラウドが使えなくなったのに対して、後者では手元にデータがあったことで何とか業務を止めずに済みました。これらから得た教訓が、データは手元に置いておくべきということです。なぜなら、建設コンサルタント会社は災禍の際にこそ、力が求められます」(鈴木氏)。
その実現に向けた情報収集の過程で偶然出会い、本命視することになったのが、Seagateの「Exos X 2U12」と「Exos E 2U12」だ。前者は2Uラックに最大216TBのストレージ容量を格納可能なRAIDストレージ、後者は2UのRAIDストレージに最大9台拡張できるペタバイト(PB)クラスまでのエンクロージャである。
注目理由として鈴木氏がまず挙げるのが、製品が「極めてシンプル」なこと。一般に企業向けストレージは多様な利用シーンを想定したソリューションとして提案されがち。ただ、それが逆に独自機能としてベンダーロックインの原因となったり、システムの利用範囲を狭めたりすることも珍しくない。
「対してExosは、大量データ管理というストレージ本来の目的に沿った“素直”な製品です。これは『オープン技術のノウハウ蓄積を通じた、既存資産をできる限り生かした対応』という当社のシステム管理方針に極めて合致しており、他社製品よりも格段に扱いやすいと判断されました」(鈴木氏)。
また、コストパフォーマンスも高く、かつ処理能力に優れていている点も高く評価したという。処理能力に関しては、SAN構成では配下のストレージの通信を一元制御するコントローラーが処理のボトルネックとなりがちだ。その点、Seagate製品はIOPS高速化のための独自ファームウェア「ADAPT」と専用ASICを採用し、Exos X 2U12のコントローラーは60万IOPSという高い性能を実現している。「Exosはコントローラー性能で群を抜き、これなら10Gイーサ環境の能力を引き出せ、DXの土台にもなり得ると判断されました。ADAPTはディスク故障時に残存ディスク間で高速に冗長性を回復する機能があり、即時の調達や対応が困難になりやすい災害時の業務継続性を高められることも魅力でした」(鈴木氏)。
HRSの新たなデータ基盤は期待通りの成果を上げている。まず、ストレージ管理業務で力を発揮しているのがExos X 2U12が備えるWebベースの管理ツールだ。
「同ツールによりストレージの利用状況が抜本的に可視化され、新規追加時の設定の手間もクリック操作だけで済むなど、作業が格段に省力化されました。構成の変更も簡単に行え、今後はその実施を通じ、容量拡張スパンの長期化によるさらなる作業省力化に取り組む計画です」(鈴木氏)。
性能についても、鈴木氏は喜びを隠さない。HDDによるストレージ製品は単独では十分な速度を発揮できないことが多いが、新環境ではキャッシュ追加などのカスタマイズの前段階、しかもHDD利用の状況で800MB/s(メガバイト/秒)以上の転送速度を実現したのだという。
「この速度には正直、驚きました。その上で既存のキャッシュサーバと連携させるなどのカスタマイズを実施し、今ではストレージ上のデータをローカル感覚で利用できるまでになっています。今後は多様な大容量データ利用がさらに加速することになりますが、これならアプリが増えても十分に対応できます」(鈴木氏)。
HRSではExosの導入に併せ、老朽化したハードの処分や物理サーバの集約などを実施し、複雑化した構成を大幅に改善させている。その過程では、仮想環境のファイルサーバも集約し、そこでも運用工数を削減。併せて、ストレージとアプリとの論理的な切り分けに取り組むことで、万一の際の原因追及も容易になるなど、セキュリティも格段に高められている。
「Exosの検討当初はコストを疑問視する声もありました。しかし、これまでの問題だった運用管理の手間や、データ転送能力、システムの複雑化の解消に効くなどのメリットを説明すると即座に納得してもらえ、それらが今、現実のものとなっています」(鈴木氏)。
もっとも、新たなデータ基盤をどう活用するかはこれからが本番だ。その点について、鈴木氏はこう展望を描く。「外部企業を巻き込んだ情報交流のインフラにExosを育て上げるのが当面の目標です。既に社内では、ストレージ内の大容量データをやりとりできるチャットツールを利用しています。その利用先を現場の協力会社にまで広げることで、業務がより効率化/迅速化し、併せて、より深くて広い情報共有を通じて新たなアイデアも生まれるはずです。その実現方法をSeagateの力を借りながら探し当てることが、これからの私の宿題になります」(鈴木氏)。
HRSのDXに向けた新たな挑戦を、Seagateはデータの側面から今後も多様なかたちで支援することになるだろう。
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アイティメディア営業企画/制作:BUILT 編集部/掲載内容有効期限:2022年7月19日