【第6回】建物の利益付け替えを行う“価格構造メソッド”の手法:建物の大規模修繕工事に対応できない会計学と税法(6)(2/2 ページ)
本連載では、建物の大規模修繕工事で生じる会計学や税法上の問題点やその解決策を千葉商科大学 専任講師 土屋清人氏(租税訴訟学会 常任理事)が分かりやすくレクチャーする。第6回は、20年ごとに行う大規模修繕工事の資金を確保するため、早期に減価償却を可能にする“価格構造メソッド”で、建物勘定と建物附属設備勘定を50:50に案分する手法について解説する。
建物における利益の付け替えは固定資産税評価額から考える!
次に建物において、価格構造メソッドをどのように活用するかを解説する。図2を参照してもらいたい。現在の慣例的比率70:30を価格構造メソッドの比率50:50にするには、利益を移動させる必要がある。この利益がどこの利益であるかと言えば、建設会社の利益である。
移動させるだけの利益が建設会社にあるのか、疑わしく思う人もいるかと思うが、実は国が建物の価格は4割弱が建設会社の利益であることを明確に示している。
利益の移動は難しい話ではない。その根拠としては、建物の固定資産税の計算式を分解することで理解できる。
建物の固定資産税額は、「固定資産税評価額×1.4%」という計算式によって算出される。ここで問題になるのが、固定資産税評価額である。固定資産税評価額は、「市場価格(実勢価格、実際の取引価格)×60%」と計算される。しかし、「なぜ市場価格に60%掛けるのか?」という疑問が生じる。実は、国は40%が建設会社の利益と見なしているため、市場価格に60%を掛けて、調整しているのだ。
ここでは、固定資産税評価額を「市場価格(実勢価格、実際の取引価格)×60%」という簡略的な算式で示しているが、実務では再建築価格方式という方法で計算されることになる。この再建築価格方式で計算することによって、建設会社の利益などが排除され、結果的に「市場価格の60%」となるわけである。この固定資産税評価額が、「適正な時価」(地方税法341条5号)として使用されている。つまり、建設会社の利益を建物附属設備勘定に振り替えれば、建物勘定と建物附属設備勘定の比率を50:50にすることが可能だと分かっていただけるのではなかろうか。
次回は、価格構造メソッドがなぜ憲法上許された方法論なのかを論じる。
著者Profile
土屋 清人/Kiyoto Tsuchiya
千葉商科大学 商経学部 専任講師。千葉商科大学大学院 商学研究科 兼担。千葉商科大学会計大学院 兼担。博士(政策研究)。
租税訴訟で納税者の権利を守ることを目的とした、日弁連や東京三会らによって構成される租税訴訟学会では、常任理事を務める。これまでに「企業会計」「税務弘報」といった論文を多数作成しており、「建物の架空資産と工事内訳書との関連性」という論文では日本経営管理協会 協会賞を受賞。
主な著書は、「持続可能な建物価格戦略」(2020/中央経済社)、「建物の一部除却会計論」(2015/中央経済社)、「地震リスク対策 建物の耐震改修・除却法」(2009/共著・中央経済社)など。
★連載バックナンバー:
『建物の大規模修繕工事に対応できない会計学と税法』
■第5回:「建設会社の役割とは、顧客に快楽を与えることである」
■第4回:「なぜ減価償却の減少が、大修繕工事の資金準備を妨げるのか?」
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