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【第5回】建設会社の役割とは、顧客に快楽を与えることである建物の大規模修繕工事に対応できない会計学と税法(5)(1/2 ページ)

本連載では、建物の大規模修繕工事で生じる会計学や税法上の問題点やその解決策を千葉商科大学 専任講師 土屋清人氏(租税訴訟学会 常任理事)が分かりやすくレクチャーする。第5回は、建設会社が顧客に満足を与える“価値”とは何かについて、経済学や会計学の観点から多角的に考察していく。

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 建設会社の役割は、建物を造ることだけではない。顧客に満足を与えることである。しかし、建設会社が建物を造ることは当たり前のことのため、造っただけでは顧客はもはや満足しない。そのため、建設会社は顧客に新しい価値を与える必要性がある。

 日々の生活で頻繁に使用している「価値」という単語であるが、明確に答えられる人は少ないだろう。経済学を勉強した賢い人は、「価値とは、効用価値である」という。それでは、効用価値とは何か?

 世界15カ国で翻訳された『善と悪の経済学』(村井章子訳、東洋経済新報社、2017年)で、著者のトーマス・セドラチェク氏は、効用の定義についてコリンズ経済学辞典を持ち出し、「効用:財やサービスの消費から得られる満足または快楽のこと」(p318)と述べている

 つまり、顧客に満足してもらうということは、顧客に快楽を与えることと言い換えられる。効用価値説を追究したフェルディナンド・ガリアーニ氏も『ガリアーニ貨幣論』(黒須純一郎訳、京都大学学術出版会、2017年)の中で、満足は快楽であると指摘している。

 筆者が思うには、快楽を感じさせるものに価格がある。ブランド品がいい例である。もし、ブランド品が安かったら誰も見向きもしないであろう。高額でも値打ちがあるから、顧客の購入意欲を刺激するのだ。

建物の価格戦略とは、ワンランク上の建物提案である

 この点を建物に当てはめて考えてみる。建設会社としては、できれば高額な建物を売りたい。しかし顧客は、良質の建物を極力安く手にしたい。つまり、建設会社と顧客が追求する価格は真逆といえる。“価格構造メソッド”は、このような時に効果を発揮する。建設会社が、顧客にワンランク上の建物を提案するときの戦略(調整機能)が価格構造メソッドなのである。図にすると下記のようになる。顧客の安く建物を取得したいという希望を、減価償却という制度を使用することによって叶(かなえ)えてあげるのだ。


価格構造メソッドが顧客満足度につながる有効性

 顧客はできれば高額な商品を買い、優越感によって快楽に浸りたいのだ。その際の顧客心理としては、値打ちのある買い物をしたという明確な満足感だ。言い換えれば、ブランド品のようなものを指す。誰もが認める値打ちあるものを手に入れた優越感と満足感、これによって快楽に浸れるのだ。

 建物において、上記の点を考えてみる。優越感は、他人より自分が勝っていることによって得られる感覚である。高額で質の良いものを取得したという事実でも、優越感を得られるかもしれない。しかし、高額な建物を購入できる資産家やブルジョア企業は多い。優越感に浸るためには、もっと刺激的な事実が欲しい。それについては、15年で建設費用の半分を減価償却できる建物を取得したという事実をもって、さらなる優越感に浸ることができるのではなかろうか。他人の知らない方法で、ブランド品より遥(はる)かに高額な建物を取得できるのだから、優越感を確実に実感できる。他人の知らない方法とは、価格構造メソッドに他ならない。

 建物の取得原価(100%)のうち、70%は50年で償却し、30%のみが15年で償却するところを、価格構造メソッドを活用すれば、建物取得原価の半分を15年で償却することが可能となる。従って、減価償却費が多くなり、税金は少なくなる。

 租税法学界の権威であり、東京大学名誉教授の金子宏氏が著した租税法のバイブル『租税法(第23版)』によれば、「租税は、国民の富の一部を強制的に国家の手に移す手段であるから、国民の財産権の侵害の性質をもたざるをえない」(弘文堂、2019年、p10)とあり、税金は「財産権の侵害」だと論じている。

 つまり、少ない税金で済むということは、「財産権の侵害」に対する勝利である。単に税金で得をしただけではなく、多くの人がまだ知らない方法(価格構造メソッド)で、勝利を勝ち得たという感覚を与えてあげることがポイントだ。この感覚こそ最高に刺激的な優越感であろう。損をせずに値打ちある建物を取得したという実感こそ至福の快楽である。


価格構造メソッドで、損をせずに値打ちある建物を取得することが顧客の快楽(満足)に直結する 出典:Pixabay

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