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オランダのFM学科が行うインターンシップ、企業の課題を学生が解決欧州FM見聞録(7)(1/3 ページ)

本連載では、ファシリティマネジメント(FM)で感動を与えることを意味する造語「ファシリテイメント」をモットーに掲げるファシリテイメント研究所 代表取締役マネージングダイレクターの熊谷比斗史氏が、ヨーロッパのFM先進国で行われている施策や教育方法などを体験記の形式で振り返る。最終回は、オランダの大学「University of Applied Science(UAS)」にあるFM学科のインターンシップ制度について解説する。

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 連載の第6回では、筆者の実体験を通して大学院でのFM教育を紹介した。今回は、学部(学士)レベルのFM教育について、オランダの「University of Applied Science(UAS)」にあるFM学科の事例を通して説明する。

 連載の第6回でも述べたが、オランダを含めヨーロッパでは、学究型の大学と職業直結型の大学があり、後者をEUではUniversity of Applied Scienceと呼称している。オランダの他、ドイツ、スイス、フィンランドのUASにFM学科があることを筆者は確認している。

FM教育は文系か?理系か?

 オランダは、欧州の中でもFM教育が盛んで、少なくとも9校のUASにFM学科があり、FM学科を設けたUASの数を人口比で約7.5倍の日本に当てはめると、1つの県に1.5校ある比率になる。

 また、毎年開かれる欧州のFMカンファレンスで、最も優れた研究を行った学生に贈られる賞「Student of the Year」のファイナリストには、必ずオランダのUASに所属する学生が選ばれ、多くが栄冠を勝ち取ってきた。筆者はオランダにあるUASのうち、「Saxion」「The Hague」「Breda」の3校と交流がある。


Saxion University of Applied Science

 日本では、高校生が大学進学を考える時、どの学部に入るかを悩むが、オランダのFM学科は文系と理系のどちらに属するか。連載第6回では、文系だと説明したが、正式な学位は「Bachelor of Science(理学の学士)」であるため、日本の大学では理系扱いとなる。しかし、FM学科の内容は図1に示す通り、文系の授業に似ている。


図1 Saxion University of Applied ScienceのFM学科における1年次の科目

 FM学科の内容が理学とされるのは、FMの大学院と同様に、科学的なアプローチをした卒業論文が必要となることが一因だと考えている。しかし、日本の理系学術者は、筆者がFMの修士論文で行ったアプローチを「学術的検証としては不十分」とするだろう。

 筆者が作成した修士論文は、調査する際に、ファシリティマネジャーのコミュニケーションを除き、同一企業の3拠点でリサーチすることを同条件としたが、この同一性に関して、理系学術者は不十分とするはずだ。ある日本の工学部建築学科の准教授は「科学的な手法は、実社会での検証が難しいため、どうしても実験室での検証にならざるを得ない」と語っていた。

FM学科の科学的アプローチと経済合理性

 日本の実社会で、とくにファシリティマネジメントを担う総務部のような総合職的な部署では、「大学での勉強は何の役にも立たない」あるいは「七面倒くさい理論はいらない」となるケースが多い。学術的にも実社会でも、FMの論理的思考というものは成立しにくく、「FMは理系ではない」という思想が、日本のFM界が望むFM学科設立が実現しない理由だろう。

 一方、オランダのUASでは、FM学科に限らず、学卒業論文を評価する際に、実社会で実践的かつ、科学的なアプローチを実施していないと判断した場合は、単位を授与しない。

 また、オランダの企業や組織では、UASに在籍する学生の研究の場を提供し、研究の結論を経営判断の材料として採用することが少なくない。合理主義的な国民性や経営層と被雇用者との対等な関係性において、科学的なアプローチが合意形成のスピードアップを実現している。

 学術的な新発見などは別にして、企業や団体が科学的なアプローチを合意形成に使用し、科学的な試みや検証を行える人財を大学が育てるという産学連携は、日本の「大学の勉強は役に立たない。会社に入ってから精神的あるいは社会性を教育する」という固定観念より、労働生産性の向上に役立っていると筆者は思う。

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