【第4回】なぜ減価償却の減少が、大修繕工事の資金準備を妨げるのか?:建物の大規模修繕工事に対応できない会計学と税法(4)(1/2 ページ)
本連載では、建物の大規模修繕工事で生じる会計学や税法上の問題点やその解決策を千葉商科大学 専任講師 土屋清人氏(租税訴訟学会 常任理事)が分かりやすくレクチャーする。第4回は、減価償却が減少することが、なぜ大規模修繕工事の資金準備を妨げるのかを解説する。
前回、建物は税制改正により法定耐用年数を過ぎると、減価償却費が激減することについて言及した。ライフサイクルの観点から考察すれば、建物の使用耐用年数は100年以上あるのに、法定耐用年数50年(RC造、事務所ビル)を経過すると、大規模修繕工事を実施しにくくなる。
なぜならば、減価償却費という費用(税法では損金という)が極端に減少することで、内部留保が圧縮され、次なる大規模修繕工事の工事資金の確保を阻害するためである。今回は、減価償却が減少することが、なぜ次なる大規模修繕工事の資金的準備を妨げるのかを論じる。
減価償却の「自己金融機能」という役割
減価償却には、自己金融機能という資金調達の機能が備わっている。通常、資金調達といえば、外部からの資金調達(外部金融)、例えば株式発行や銀行借入などを思い浮かべる人は多いだろう(図表1)。
減価償却は、内部からの資金調達(内部金融)を可能にする。理由は、減価償却費はキャッシュの支出を伴わないため、内部にその資金を蓄積させる機能があるからだ。いわゆる内部留保だ。つまり、減価償却費が減少することは、大規模修繕工事に必要な資金の調達を阻害することになる。ましてや、減価償却費が減少すれば、利益(所得)は大きくなり、比例して税金も高くなる。税金を支払うことは、さらなるキャッシュの流出を意味する。従って、大規模修繕工事の資金計画から考えると、減価償却費が減少することは由々しき問題となる。
一部除却も「自己金融機能」
既に連載で触れている一部除却も、減価償却と同様に自己金融機能の役割を果たしている。なぜならば、一部除却という特別損失を計上しても、減価償却費と同じくキャッシュの支出を伴わず、その資金を内部に蓄積させる機能があるからだ。しかし、周知の通り、建物の大規模修繕工事で一部除却という会計処理を実行することは、高度な建築知識が必要となるため、現実的にはかなり難しい。
持続可能な社会と声高らかに叫ばれているが、経済活動、社会活動の重要拠点である建物に関しては、会計処理・税務処理に大きな問題を抱えている。
では、このような問題を解決する打開策はあるのか?答えは、YESである。建物の価格構造を変更すれば可能になる。会計学者や税法学者、公認会計や税理士に任せていては、上記の問題は解決できない。それでは誰が解決するのか?答えは、建設会社だ。
「企業の社会的責任」とはボランティア活動や寄付活動ではない!
CSR(Corporate Social Responsibility)「企業の社会的責任」は、企業戦略の1つとして重要視されているが、この定義はISO26000によって明確に定義されている。ISOとは国際標準化機構のことである。つまりCSRの社会的責任も、ISO26000の「社会的責任」を借用していると言える。詳細は、拙書『持続可能な建物価格戦略』を参照していただくとして、簡略的に言えば“企業の社会的責任”とは、企業が行っている本業を通して社会的に責任を果たすこと言い換えられる。
本業を通していないボランティア活動やゴミ拾いなどが、CSRだと思っていたら、それは国際標準とは異質のものになってしまう。また、CSRを考えるときに外せない単語に「ステークホルダー(利害関係者)」がある。そのため、ステークホルダーに対して、本業を通して社会的責任を果たすことこそがCSRと呼べるのだ。
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