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オランダ大学院のFM教育方法で、実務的な授業内容とは?欧州FM見聞録(6)(1/2 ページ)

本連載では、ファシリティマネジメント(FM)で感動を与えることを意味する造語「ファシリテイメント」をモットーに掲げるファシリテイメント研究所 代表取締役マネージングダイレクターの熊谷比斗史氏が、ヨーロッパのFM先進国で行われている施策や教育方法などを体験記の形式で振り返る。第6回は、オランダの大学院におけるFMの教育方法を紹介する。

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 これまで5回にわたり、自分で見聞き、体験したことを通して、欧州のFMやFMにおけるITシステムの変遷などを紹介してきた。オランダでFMの大学院(修士課程)を受講したことにも触れたが、今回と次回の2回にわたって、自身の院生時代の体験を交えながら、FMの教育に関してオランダの現状について紹介する。

FM大学院入学のきっかけ

 筆者が大学新卒で就職した会社には、海外研修(留学)制度があったが、入社した頃は同制度を利用しようと思うような前向きな社員ではなかった。そんな自分が大学院で勉強してみたいと思うきっかけとなったのは、連載の第1回でも書いた1996年のオランダFMとの出会いである。オランダのFMは、「ユーザーに向けてのサービス」という概念であり、これに感銘を受けオランダのFMをもっと知りたいと思った。

 また、筆者が1996年以降、毎年のように出席していたヨーロッパのFMカンファレンスで、オランダに英語で学べるFM大学院があることを知ったことも留学する要因となった。オランダのFMを実践している場に、身を投じてみたい気持ちもあったが、さすがにそこに飛び込む勇気も語学力もなく、「まずは大学院ならばなんとかなるのでは」と思った。実はそんなに甘いものではなかったことは後に述べる。

 まずは、社内公募制の海外研修生に選ばれるべく、英語の勉強を始め、2回目のチャレンジで合格し、2000年9月から、オランダの「Hogeschool IJselland European Master Facility Management(MFM)」に入学できた。IJsellandとは、その学校がある地方の名前である。この学校は私が卒業後、他の大学と合併してSaxion University of Applied Scienceと改称している。

 Hogeschoolは、実務に特化した大学のことで、ヨーロッパには同じ制度の学校が多数ある。現在、EU内では「University of Applied Science」と統一して呼称されている。


Saxion University of Applied Science(Hogeschool IJselland European Master Facility Management)

FM大学のコース構成

 日本の大学院修士課程では2年間だが、ヨーロッパでは多くの修士課程が1年間である。また、授業は週に2日しかない。読者の方は「楽勝」と思われるかもしれないがそうでもなかった。当時、既に社会人のキャリアもFMの知識と経験も他のクラスメートよりはあった自分でも「しんどかった」というのが正直なところである。修士課程のコース構成を表1に示す。後期は修論の関係で、修士課程で行うプログラムの共同実施校である英国「University of Greenwich」で受けたのだが、履修した選択科目のタイトルを失念してしまったので省略させてもらう。

 前期の授業は木曜日と金曜日に開かれ、大学から離れた場所にある街から通うパートタイム(社会人)受講生が集中して受けられるようになっていた。私を含めた他国からの留学生と学部の4年生には、月曜に1コマ「FM概論」という科目があった。FM概論は、Peter Ruepert先生がケーススタディーの文献を読み、その中にある重要な意味を学生が読み解き発表するという授業だった。Peter Ruepert氏は、後に私の修論の試験官にもなり、今でも親交がある。


修士課程のコース構成

 各授業は、表1のコース構成を見てもらうと分かるように、ファシリティのハード的なことはほとんどなく経営学科に近い。どのクラスも、座学でなく、学生がグループを組み、与えられた課題を文献やインターネットを用いて調べ、発表し、他の学生も交えて議論する形式だった。

 前期に行われた授業の中で印象に残っているのは、「Management Principles(経営学原論)」だ。Management Principlesの先生は、外部から来たコンサルタントの方で、他の先生と同様に明るく楽しい人柄だったが、発表や成果ついては厳しく妥協を許さない人だった。Management Principlesは、Peter Ferdinand DruckerやMichael Porterなど、経営学のGuru(巨匠)と呼ばれる学者の理論を勉強し、オランダの会社や組織を訪ねて、インタビューなどを通し、それぞれの理論がどのように現実の組織の中で使われているかを発見するというグループワークを行った。

 複数のグループで最終レポートが合格せずに、追試(再発表)となり、ノイローゼ気味になっている学生もいた。私のグループは、野中幾次郎の「場の理論」をオランダ・スキポール空港公団のFM部門に当てはめ、何とか発表1回でクリアした。

 もう1つ、印象に残っている授業は、「Research Methods(調査方法論)」である。ヨーロッパの中でもとくにオランダの学校では「理論的思考」を「実務」に適用することが重要視される。Research Methodsの最終レポートは、後期で自分がやる修論の研究計画であり、何がこの研究をすることの目的と意義なのか、どのような文献(既存理論)を参考にし、新規性のある具体的な仮説を設定し、それをどのように検証していくのか決めなければいけない。 

 この検証は文献調査だけでは許されず、科学的な手法で実際の組織などを対象に調査しなければならなかった。Research Methodsの先生は、最も厳しく、前期の授業だったが、学生によっては後期に入っても合格がもらえず、単位が得られないこともあった。

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