【第6回】建物の利益付け替えを行う“価格構造メソッド”の手法:建物の大規模修繕工事に対応できない会計学と税法(6)(1/2 ページ)
本連載では、建物の大規模修繕工事で生じる会計学や税法上の問題点やその解決策を千葉商科大学 専任講師 土屋清人氏(租税訴訟学会 常任理事)が分かりやすくレクチャーする。第6回は、20年ごとに行う大規模修繕工事の資金を確保するため、早期に減価償却を可能にする“価格構造メソッド”で、建物勘定と建物附属設備勘定を50:50に案分する手法について解説する。
前回は、建物を取得した顧客の満足度を上げるためには、早期に償却できる価格設定が求められている点について言及した。現在の価格設定で顧客が建物を取得した場合、およそ建物価格の70%が建物勘定という資産に計上され、50年で償却される。そして、残りの30%が建物設備勘定という資産に計上されて、15年で償却されることになる。
持続可能な社会や循環型社会形成、SDGsを考えると、建物が早期に償却できるようにしなければばらないため、この建物勘定と建物附属設備勘定の比率70:30を、せめて50:50にする必要がある。
減価償却はキャッシュの支出を伴わずに費用化できることが特徴であり、その減価償却費の累計額が内部留保となり、20年ごとに行う大規模修繕工事の資金源になる。そのため、建物を早期に償却できれば、その分内部留保も厚くなり、大規模修繕工事が実施しやすい資金的環境を構築することが可能になるからである。2次的効果として税金も圧縮することが可能となり、その圧縮額も大規模修繕工事の資金に活用できる。
この50:50にする方法論を“価格構造メソッド”という。この方法論は、これまでに言及してきた一部除却が会計処理的に難しいことから生じる架空資産問題、また不必要な税金の問題、そして資本的支出の変更による大増税の打開策でもある。
“価格構造メソッド”とは何か?
価格構造メソッドとは、簡略的に言えば、「利益を付け替える」ことである。まずは、利益の付け替えが、どのような概念であるかを説明する。
図表1を参照していただきたい。減価償却の法定耐用年数については、理解しやすいようにたとえ話に置き換える。ここでは、減価償却の法定耐用年数(償却期間)をジャケット5年、ズボン5年、靴2年とする。
ブランド洋服店が1のように、ジャケット55万円、パンツ35万円、靴10万円、一式100万円でショーウインドーにそれぞれ値札を付けて陳列している。儲(もう)かっているダンサーが、この一式を購入したいが、今年は所得が多く、できる限り経費多くしたいので、どうにかならないか店主に相談した。店主は、ジャケットやパンツより靴の方が、減価償却の期間が半分以下であることを知っていたので、3のようにジャケットの利益を靴に付け替えることにした。つまり、ジャケットの利益20万円分とズボンの利益5万円分を靴に移動させたのだ。
ブランド洋服店の売上100万円も、利益65万円も利益を付け替えたからと言って変わりはない。洋服店は一切損をしないのである。重要な点は、お客であるダンサーのトータルの減価償却費が、23万円から10万円増え、33万円になることで、税金を圧縮することになり、喜んで購入してくれるという事実である。
利益の付け替えを行う価格構造メソッドとは、商品・製品を販売する側が何も損をせずに、顧客の満足度をUPさせる価格設定法といえる。
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