従業員の「期待度」を知り、自社にとっての「最適解」を探る:エンゲージメント向上のポイント(1):「従業員エンゲージメント」を高め、建設2024年問題を乗り越える(3)(3/3 ページ)
本連載では、リンクアンドモチベーション 組織人事コンサルタントの山本健太氏が、建設2024年問題の解決策として、会社と従業員の間をつなぐ「エンゲージメント」とその向上策について解説していく。今回は、具体的な改善活動を進めていくためのポイントについて「診断」と「変革」の2つのステップで紹介する。
変革にひそむ誤解「成功事例をまねることが近道になる」
エンゲージメントサーベイで組織状態を診断したら、変革に向けて施策を立案、実行していきますが、このときによくあるのが、他社で成功した施策を導入して失敗するパターンです。
今の時代、エンゲージメント向上の成功事例を見つけるのは簡単です。しかし「A社が○○をして成功しているのだから間違いないだろう」と他社の成功事例をまねても、それでエンゲージメントが上がるケースはほとんどありません。むしろ、他社の成功事例が自社では失敗事例になってしまうこともあります。実際に、他社施策の模倣がうまくいかなかった事例を2つ紹介します。
事例1:理念を刷新したが……
X社は、経営層が目指す姿を現場の従業員に理解してもらうために、経営理念を刷新しました。しかし一部の従業員から「理念を変えても、現場は何も変わらない」と予想外のネガティブな反応があり、かえってエンゲージメントの低下を招いてしまいました。
事例2:親睦会を開いたけど……
Y社は、現場内のコミュニケーションを活性化させて風通しの良い組織風土をつくろうと、終業後に会社近くの居酒屋で親睦会を開きました。しかし親睦会への参加率は低く、開始時間になっても人が集まりませんでした。参加者からは上司や労働環境への不平不満ばかりが聞かれました。その結果、「本当にこの会社にいて大丈夫なのか?」と不安が広がり、かえってエンゲージメントが低下してしまいました。
2社とも「この施策は良さそうだ」と他社の成功事例を取り入れましたが、結果は裏目に出てしまいました。施策そのものが悪かったわけではなく、X社やY社の組織状態に適した施策ではなかったことが失敗の要因です。
ポイントは「絶対解を求めるのではなく、最適解を探る」
当然のことですが、企業によって組織状態や組織課題は異なります。そのため、エンゲージメントの向上を図る際は、企業ごと、またそのときの組織状態によって最適な施策が変わるという前提に立たなければなりません。
同業他社の取り組みは気になるものですが、その成功事例を単純にまねるのは避けるべきです。同じ業界でも、会社や部署によって組織状態は異なるため、打つべき施策の方向性も違ってきます。まずは組織状態に応じて打ち手の方向性を定めることが必要です。
その上で最も重要なのは、エンゲージメント状態ごとの「絶対解」を求めるのではなく、自社に合った「最適解」を探ることです。どんな組織にも通用する施策はありません。そのため、組織ごとに効果的な施策は異なるという前提に立ち、自社に合った最適解を見つけ出すことがエンゲージメント向上の近道といえるでしょう。
おわりに
これまで紹介したように、従業員エンゲージメント向上の取り組みは診断と変革の2ステップに分かれます。サーベイや施策を推進するだけでは改善活動はうまくいきません。エンゲージメントサーベイで期待度を測ること、そして、自社にとっての最適解を探り、変革に向けた施策を実施していくことが重要です。
どの企業も組織課題は1つではなく、いくつもの課題が複雑に入り組んでいます。そのため、1つの組織課題を解決しても新たな課題が生まれ、なかなか改善が進まないという状況に陥りがちです。大切なのは、サーベイで抽出した優先課題への取り組みだけでなく、組織全体を俯瞰し、「採用」「育成」「コミュニケーション」などの多角的な施策を連動させることです。
次回は、エンゲージメント向上を図るうえで、各施策を連動させるポイントについて解説します。
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