従業員の「期待度」を知り、自社にとっての「最適解」を探る:エンゲージメント向上のポイント(1):「従業員エンゲージメント」を高め、建設2024年問題を乗り越える(3)(2/3 ページ)
本連載では、リンクアンドモチベーション 組織人事コンサルタントの山本健太氏が、建設2024年問題の解決策として、会社と従業員の間をつなぐ「エンゲージメント」とその向上策について解説していく。今回は、具体的な改善活動を進めていくためのポイントについて「診断」と「変革」の2つのステップで紹介する。
診断にひそむ誤解「不満を解消すればエンゲージメントは向上する」
エンゲージメントサーベイで組織状態を診断すると、従業員の不満が抽出されます。初めてサーベイの結果を見た企業は、「こんなに不満があったのか」とショックを受けながらも「1つずつ解消していこう」と対策に着手します。しかし、不満を解消するだけではエンゲージメントは向上しません。このことは「ハーズバーグの二要因理論」から説明できます。
アメリカの臨床心理学者であるフレデリック・ハーズバーグは、職場における満足/不満足に関わる要因を、「衛生要因」と「動機付け要因」の2つに分けて説明しています。
衛生要因とは、充足されていないと不満を感じるが、得られても満足につながるわけではない要因のことです。「経営方針」「上司/同僚/部下との関係性」「作業条件」「賃金」「雇用の安定性」などがこれに当たります。
一方、動機付け要因とは、充足されていなくても不満は感じないが、得られれば大きな満足につながる要因のことです。「達成感」「承認」「意義」「責任」「昇進」「成長」などがこれに当たります。
エンゲージメントサーベイの結果、給与や働き方に不満を持つ従業員が多いことが分かったとします。この結果を受け、給与や働き方を見直すのは自然な判断だといえますが、これらは二要因理論に当てはめると衛生要因であり、衛生要因へのアプローチだけでエンゲージメントを向上させるには限界があります。給与や働き方などの衛生要因に対応しながら、「いかに動機付け要因に働きかけられるか」が重要です。
ポイントは「エンゲージメントサーベイで“期待度”を把握する」
一般的なエンゲージメントサーベイでは、従業員の満足度のみを測る場合が多く、「満足度の低い項目から対策する」という方針になりがちです。しかし、必ずしも満足度の低い項目が、優先的に対策すべき項目とは限りません。
連載第2回で示した通り、建設業界では、上司に満足していない現場はエンゲージメントが低いという傾向が顕著に見られます。この点を踏まえると、上司への満足度を高めるために1対1のミーティング(1on1)を導入して対話の機会を設けることや、上司向けの研修を実施するなどの施策が効果的に思えます。
しかし、従業員に上司以外の他の不満がある場合、解決してほしい課題とズレた施策になってしまい、「別に上司と1on1をしたいわけではない」「上司の他にも優先的に変えてほしいところがある」などと逆に不満を増幅させてしまう危険性があります。
こうしたすれ違いを防ぐためには、エンゲージメントサーベイで、満足度だけでなく「期待度」を測ることが大切です。従業員が何にどのくらい期待しているのか(期待度)を把握し、期待に対してどれくらい満足しているか(満足度)を確認することで、「不満を解消する」のではなく「期待に応える」という方針で対策ができます。また、従業員の期待度が分かれば動機付け要因を抽出しやすくなるため、より効果的にエンゲージメント向上を図ることが可能になります。
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