キヤノンがNEXCO総研や東設コンサルと三位一体で目指す点検DX 最新機能の「変状ランク判定」は年内実用化:AIでインフラ点検の常識を変える!(3/3 ページ)
国内では、高速道路をはじめ、インフラ構造物の老朽化が深刻化している。笹子トンネル天井板落下事故を契機に、2014年度から道路構造物の5年に1度の定期点検が義務付けられた。国内に70万橋あるとされる橋梁も対象となり、道路管理者は近接目視をメインに1年で12万橋ほどの点検をしているが、人手不足や安全面への配慮に課題は多く、今後の持続性に課題を抱えている。
人やAIによる変状抽出結果をもとに、損傷度や危険度も自動判定
ヒアリングの結果、各拠点の試行状況をみると、地域や拠点サイズで事情が異なることが判明した。定期的に利用した拠点もあれば、一時的に使うだけのケースもあった。例えば、北海道であれば秋のうちに現場作業を終えることを優先し、事務所で行う変状抽出作業は冬に取り掛かるといった利用傾向が明らかになった。
山之内氏によると検証で分かったことは、「点検DXは近接目視から高解像度カメラ撮影、手書きトレースからAIといったワーク(作業単体)のデジタル化だけでは不十分。ワークとワークをつなぐ、AI検知に対応したブレたりボケたりしない確かな撮影技術なども含む、“ワークフローのデジタル化”が不可欠となる。そのためには、関係者に講習会などで意義や効果を納得してもらい、合意形成を図ることは欠かせない」と結論付ける。
こうした課題解決を経て、NEXCO総研や東設土木コンサルタントの技術や知見が詰まった「個別変状ランク判定」は2024年中の実用化を予定している。個別変状ランク判定は、NEXCOの点検要領をベースとし、画像から抽出した変状の特徴量、点検技術者による既存の判定結果を客観的に分析して、ルールベースの自動判定を実現したもので、変状個別の損傷度と道路構造物の健全度を部位ごとに自動判定する。損傷度は、損傷無し>B>A2>A1で点検図面に色表示し、健全度はI>II-1>II-2>III-1>III-2>IVの6段階で危険度を可視化する。
穴吹氏は、「抱えている課題は国や高速道路会社、自治体にも共通している。今回の技術はさらに多くの点検現場を変えることにつながるはず。これからも共同研究を続け、さらなるAIの成長を目指したい」と意気込む。
山之内氏は今後、最近普及しつつあるドローンなどの「3Dデータによる点検や時間軸を加えた4Dデータの経年変化把握といったニーズにも、キヤノンの技術力と当社のノウハウの融合で対応していけたら」と展望を口にした。
【訂正】記事の初出時に、個別変状ランク判定は「3者の技術」「AIアルゴリズムを発展させた」とありましたが、厳密には「NEXCO総研と東設土木コンサルタントの技術」「画像から抽出した変状の特徴量、点検技術者による既存の判定結果を客観的に分析」との指摘があったため、該当箇所を修正しています(2024年4月8日15時31分)。
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