【最終回】発注者のニーズを知り、要求条件をまとめる(下)−ブリーフィング/プログラミングの重要性−:いまさら聞けない建築関係者のためのFM入門(12)(5/5 ページ)
本連載は、「建築関係者のためのFM入門」と題し、日本ファシリティマネジメント協会 専務理事 成田一郎氏が、ファシリティマネジメント(FM)に関して多角的な視点から、建築関係者に向けてFMの現在地と未来について明らかにしていく。今回は、要求条件を伝える方法として、プログラミング/ブリーフィングの在り方について、モデルルームのコンセプトに詩を用いた事例を交えながら解説する。
要求条件書は“バイブル”
かつて、ある企業の本社ビルの計画をした際に、建物もワークプレースもそれぞれ要求条件書をコンセプトシナリオとして詩も作成した。そこには彼らの建築への思い、要求機能、ワークプレースでの働き方のなどが表現されていた。設計者はそれらをベースに要求条件を満たし、デザイン的にも素晴らしい設計をした。
しかし、施工中に発注側の責任者(ファシリティマネジャー)が、現場の担当者に、作成したコンセプトシナリオの話をしたら、担当者はそのコンセプトシナリオのことは知らず、設計図通りに作るので問題ない旨の話をした。それを聞いたファシリティマネジャーは、現場関係者にも自分たちの思いを知って欲しい、図面には表現できていない思いを知って欲しいと、ファシリティマネジャーが現場関係者へ周知すべく説明会を開催した。説明会では、私からもシナリオを説明し、現場関係者にも発注者の思いを共有することにつながった。その後、現場事務所にもバイブルとしてコンセプトシナリオ(要求条件書)を置くようにと指示された。
このように、シンプルな詩やシナリオのような形でも、発注者の思いを正確に伝えるのは、重要なことであり、そのほんの少しの行為が、建物の将来を大きく変えることになるのである。シナリオは、設計者に制限を与えたり、設計し難くするものではなく、設計者の才能を引き出し、設計意欲が湧くようなものでなくてはならない。こうした手法をぜひ活用していただきたい。
「いまさら聞けない建築関係者のためのFM入門」シリーズも12回を数え、今回が最終回になります。お読みいただいた方々に深く感謝いたします。少しはお役に立てましたでしょうか。FMの範囲は広く、捉えにくいかもしれませんが、設計や施工をする立場ではなく、自分事としてとらえユーザーの視点で見ると、新たな発見があり、皆さんのお役にきっと立てると思います。FMは、人・企業・社会(地球)を幸せにする仕事です。どうぞFMを楽しんでください。
次回からは新連載「FM調査研究部会の活動探訪」と称し、日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)で活動している18の調査研究部会を紹介します。さまざまなFMの調査研究部会の活動は、きっと建築関係者の皆様にも何らかのヒントになるお話しがあると思います。
また、お会いできるのを楽しみにしております。
※連載引用文献:「建築を創る 今、伝えておきたいこと」編:建築のあり方研究会(2013/井上書院)、「公式ガイド ファシリティマネジメント」編:FM推進連絡協議会(2018/日本経済新聞出版発行)
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