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【最終回】発注者のニーズを知り、要求条件をまとめる(下)−ブリーフィング/プログラミングの重要性−いまさら聞けない建築関係者のためのFM入門(12)(4/5 ページ)

本連載は、「建築関係者のためのFM入門」と題し、日本ファシリティマネジメント協会 専務理事 成田一郎氏が、ファシリティマネジメント(FM)に関して多角的な視点から、建築関係者に向けてFMの現在地と未来について明らかにしていく。今回は、要求条件を伝える方法として、プログラミング/ブリーフィングの在り方について、モデルルームのコンセプトに詩を用いた事例を交えながら解説する。

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詩のブリーフィングで合意形成がスムーズに

 言葉(詩)で、住まい手の要求が分かるだけでなく、日常の生活スタイルも分かる。例えば、居室での生活の仕方、日の当たり方、においの処理、ベッドをテラスで干したいこと、火災安全性への配慮、換気小窓の位置、手すりの位置、洗濯機が横型でないと手が届かないこと、トイレと洗面と浴室を一体で使いたいこと、一人で入浴するときと母に介助してもらうときの違い、母が腰を痛めないようにする方法、雨戸の締め方と機能などなど、これらが言葉で簡単に表現できるのである。


詩の「要求条件」に基づき設計したモデルルームの居室

モデルルームの浴室

 図面を書くのはプロでないと難しいが、文章は誰でも気軽に書ける。図面や絵でないと表現できないこともあるが、文章の方が表現しやすいものもある。訂正も簡単である。図面や絵はソリューションの方法としては重要な手段だが、要求条件としては、文章の方が適している。文章は、図面では表現しづらい感覚的な思い、季節感、雰囲気、時間の変化、温度などの環境条件、行動・使われ方、サービスなどを容易に表現することができる。言葉は、時空を超えることもできる。そして何より、関係者で容易に情報共有して、これらをベースに合意形成することにも役立つ。

 要求条件を的確に伝えるには、細かな寸法や仕様を決めるより、発注者の意向や利用者の真のニーズ・思いを伝える方が大切である。その思いは、このような詩だからこそ、より相手に伝わるのである。いわば仕様発注と性能発注の違いのようなものである。

 このプロセスをスムーズに進めるには、前回紹介した「一対比較インタビュー法」で利用者のニーズを正確に把握して、次に現状を把握して、そして方向付けとして、今回紹介した「物語による要求条件書」を作成することである。


インタビューからストーリーづくりへ

 インタビューは個別で、「物語による要求条件書」は、関係者でグループディスカッションなどで進めるとよい。物語のベースは、インタビュー結果から作成し、パワーポイントなどで画面に映しながら関係者で作り上げていく方法が便利である。その時のコツは、あまり文学的にならないこと。要求条件を淡々と素直にまとめることをお勧めする。これからできるものの要求条件をまとめることは、夢があり楽しい。それらを関係者とディスカッションしながら進めることは、目標(ゴール)を明確化するだけでなく、意識や情報を共有することにもつながり、プロジェクトもスムーズに進められる。

 この方法で設計したものは、顧客の満足度も大変高く、設計の手戻りも少なく、発注者、設計者ともに喜んでいただいている。用途もあらゆる用途に応用できる。

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