木質構造建築物の多様性と可能性:木の未来と可能性 ―素材・構法の発展と文化―(2)(2/2 ページ)
本連載では、一級建築士事務所 鍋野友哉アトリエ/TMYAを主宰する一級建築士の鍋野友哉氏が、近年環境に優しいなどの理由で関心を集める木材にスポットライトを当て、国内と世界における木造建築の歴史や最新の木造建築事例、木材を用いた構法などを紹介する。連載第2回となる今回は、木質材料の特性を生かした多様な空間の構築方法を採り上げる。
2.Park Community KIBACO(2020年竣工、設計:鍋野友哉アトリエ、構造:宮田構造設計事務所)
都立木場公園の南側で、ふれあい広場の玄関に建つ「Parc Community KIBACO」(写真5)では、方杖(ほうづえ)を用いた構法を2方向に発展させた、大きな樹の枝張りをモチーフとした「樹状方杖構法」(写真6)を考案・開発して、この建築物に採用しました。
この樹状方杖は、地震が起きた際、柱周囲にビスで取り付けられた受材が地震力を吸収することで建築物の破壊を抑制して、大きな変形時にはスプリットされた2次受け材がエネルギーを吸収します。受け材は、変形後にビスを外して容易に交換でき、性能を容易に回復することが可能で、建築物のサステナビリティを考慮した構法となっています(図1)。
また、木造建築物を考える上で避けて通れないのが防耐火性能です。構法を考える上で、構造上の問題だけでなく、防耐火性能も架構・構法に大きく影響します。そして、現在、日本の建築基準法では、木造は防火性能的にRCやS造の建築物に比べて不利な状況に置かれています。とはいえ、近年の相次ぐ法改正で、かなり緩和されてきていますが、まだまだ防火地域内で木造建築物を建てることは、ハードルが高いといえます。
木場公園という敷地も防火地域に指定されており、100平方メートルを超えた場合は、耐火建築物にせざるを得ません。耐火建築物にすると、プラスターボードなどで柱や梁(はり)といった軸組材を被覆する必要があり、木を現(あらわ)しで利用する事が非常に難しくなります。
解決策として、このプロジェクトでは、通り抜けられる大きな三角形のウォークスルーテラスによって、3つの建物に分棟することで、耐火要件を緩和し、最も面積の大きいB棟に燃代設計を用いて、施設全体を準耐火構造で成立させ、防火地域内にある都市公園の本敷地中において構造材を現しとすることを実現しました。
Parc Community KIBACOの建設地である木場という土地は古くは木の集積地であり、昔は、貯木場であった歴史を踏まえて、外壁には東京・多摩産スギ材の熱処理材を使用しました。建物の近くにはシイとケヤキの大きな既存樹木が1本ずつあり、施設が両樹木に近接していることで、建築物の庇(ひさし)下空間と樹木の枝葉に覆われた木陰(こかげ)をつなぎ、園路側から建築物、そして建築物から広場側へと連続的に空間を拡張させました。加えて、施設内のウォークスルーテラスによって建築物にゲート性を持たせることで、広場と園路を緩やかに接続することができました(写真7)。
今回は2つの作品例を通して、構法や木質材料の関係、法規制に対する設計上の工夫、考え方について述べました。次回は、近年注目されているCLTを使った作例を含めて、構法や素材特性の観点から木の未来と可能性について考えていきたいと思います。
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