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木質構造建築物の多様性と可能性木の未来と可能性 ―素材・構法の発展と文化―(2)(1/2 ページ)

本連載では、一級建築士事務所 鍋野友哉アトリエ/TMYAを主宰する一級建築士の鍋野友哉氏が、近年環境に優しいなどの理由で関心を集める木材にスポットライトを当て、国内と世界における木造建築の歴史や最新の木造建築事例、木材を用いた構法などを紹介する。連載第2回となる今回は、木質材料の特性を生かした多様な空間の構築方法を採り上げる。

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 第1回目の連載では、木質材料発展の歴史と素材の基礎知識に触れましたが、第2回目では、各素材の特性をどのように活用して建築に採り入れるか、またそれによってどのように多様な空間と構法を生み出すかということに関して、私がこれまでに設計担当した建築作品の例を通して紹介します。

1.弥生講堂アネックス(2008年竣工、設計:河野泰治アトリエ、構造:東京大学 木質材料学研究室 稲山正弘氏)

 木材で建築物を作ろうと考えた場合、軸材料として使用することが最も素直な使い方で、いわゆる「在来軸組構法」と呼ばれて普及している構法は、木材を軸材料として使用します。そして、在来軸組構法は、プレカットと木材の規格化が支えており、これらの加工が施された市場流通材や小径断面材をうまく組み合わせる事で、面白い空間や構法を作ることができます。

 上記の事例として、東京都千代田区の東京大学敷地内で2008年に竣工した弥生講堂アネックス(写真1)を説明します。弥生講堂アネックスは、筆者が以前、河野アトリエ在籍時に担当した作品で、講義室(写真2)とギャラリー(写真3)から成っています。弥生講堂アネックスの大きな特徴は、木質HPシェル※1を用いた構法・構造と軸材料を連続させて作り出した門型フレーム構法を採用した建築物であることです。

※1 HPシェル:総局放物面。断面方向の違いで、双曲線と放物線が現れる三次元局面構造の事


写真1 弥生講堂アネックスの外観

 通常門型フレームを構築する場合は、接合部の金物で大断面の材料をつなげることが多いのですが、この講義棟で採用した門型フレームでは、住宅用に流通している柱材を使用して、トラスを作り出すように2列1組でフレームで構成しています。フレーム同士の接合には、長ビスと在来軸組用の住宅金物を用いて、フレームを地組し、それをクレーンで建てていくという工法で門型フレームは建てていきました。

 このように、柱材のような小径の軸材でも、うまくトラス部材として在来軸組構造の中に採り入れることで、特別な材料を使わずに流通している製材や住宅用の接合部金物、ビスなどだけで、一方向門型フレームの架構を作ることができます。


写真2 講義室内観 製材を用いた一方向連続門型フレーム構法

写真3 ギャラリー内観 木造HPシェル構法による空間

 もう一方の木質HPシェル構法によるギャラリーでは、大きな曲率を持つ局面をどのようにして形成するかという事が大きな課題でした。「心材に丸太を用いる」「ツーバイフォー材などを曲げて利用する」といったいくつかの方法を検討した結果、どれもうまく進みそうにありませんでした。そこで、「薄い材料を活用してはどうか」という事になり、合板は面材料として使うことが主用途ですが、「その薄さを活用して合板を用いてウェブ材を構成してはどうか」という考えに至り、原寸に近いサイズで検討し、設計を進めて、大きな曲率を有す局面を制作しました。


写真4 合板によるHPシェル骨組み

 また、木質HPシェルを構成する4辺の材料には、寸法安定性に優れたLVL材を採用し、LVL材に合板ウェブ材を取り付ける腕木を接合して、組んでいくという手順で木質HPシェルを構成しています。

 このように、木質材料の特性を理解して、適材適所で用いることで、多様な構法、形態、空間を生み出せます。

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