ポラス暮らし科学研究所が制震壁の機能を持つ耐力壁を開発、地震後も住める家を実現:耐震
ポラス暮らし科学研究所は、耐力壁のような耐震性を持ちつつ、制振壁と同様に地震のエネルギーを緩和することが可能な高性能耐力壁「Endure Wall」を開発した。
ポラスグループのポラス暮らし科学研究所は2021年3月8日、埼玉県越谷市の本社で、耐震と制震の性能を備える高性能耐力壁「Endure Wall」の性能を披露する記者発表会を開いた。
会場では、ポラス暮し科学研究所 構造グループ 照井清貴氏が、Endure Wallの開発経緯や概要を紹介した他、Endure Wallの耐震実験も披露した。
通常の耐力壁と比べて、地震の振動を約50%低減
冒頭、照井氏は、「現在、建築基準法で求められている住宅の性能は、建物の供用期間中に数回遭遇する程度の“中地震”でも損傷せず、地震後は修復が不要で、建物の供用期間中に1回直面する可能性がある“大地震”でも、家が倒壊・崩壊せず人命が守られるというものだ。つまり、壊れないことと人命を重要視しており、地震後も住み続けられることを建築基準法では要求していない。そのため、一度大地震を受けた住宅の中には、耐震性が低下し、居住が難しいものが多い。そこで、地震後も、生活を継続できる住居を実現するEndure Wallを開発した」と経緯を説明した。
Endure Wallは、複数回の地震に対し、耐震性能が下がらないことを目指して、ポラス暮し科学研究所が、2018年に開発を開始し、開発に成功したのは2020年2月頃で、既に千葉県の注文住宅2件で採用されている。今回の記者発表会後、ポラスグループでEndure Wallの展開を本格化する。Endure Wallの種類は枠組壁工法用と在来軸組工法用の2種類。Endure Wallの主な構成部材は、木材フレームや高減衰ゴムと鋼板から成る性能復元材「KOA(Key of Anker)ダンパー」の2つ。
木材フレームは、ポラスが非住宅用部材の組み立て梁(はり)開発で培った「部材間接合システム」により部材同士を強固につなぎ堅牢な構造とした。使用する高減衰ゴムには橋梁(きょうりょう)と高層ビルの衝撃吸収素材として使用されている高硬度のものを採用している。
Endure Wallの特徴は、KOAダンパーを丈夫な木材フレームの中央に取り付けることで、耐力壁のような耐震性を持ちつつ、制振壁と同様に性能復元材が変形し地震エネルギーの緩和を実現したことだ。「KOAダンパーと強固な木材フレームの効果で、Endure Wallを搭載した住宅は、建物が地震を受けても、構造性能が変化しないため、100年間に渡りメンテナンスが必要無い」(照井氏)。
ポラス暮し科学研究所では、Endure Wallの有効性を検証するために、Endure Wallを組み込んだ木造住宅と一般的な耐力壁を搭載した木造家屋に対して、地震の揺れを4回与える実験を行った。実験で人工的に発生させた振動は、1回目が阪神・淡路大震災の50%に相当するもので、2回目は阪神・淡路大震災の70%に匹敵するもの、3回目は熊本地震の前震と同じ強さ、4回目は熊本地震の本震レベルだった。
結果、通常の耐震壁を導入した木造家屋は、自身を受けるたびに変形し、4回目の揺れで倒壊した。一方、Endure Wallを組み込んだ木造住宅は、1回目の揺れを受けても、歪(ゆが)みの発生は少なく、2回目以降の振動では変形はほとんど進まず壊れなかった。「この実験で、Endure Wallは、通常の耐力壁と比べて、地震の振動を約50%低減し、繰り返す地震と余震にも強いことが判明した」(照井氏)。
照井氏は、「Endure Wallのメリットを調べることを目的に、耐震等級3の性能を備える木造住宅が、熊本地震の前震と本震に相当する揺れを複数回受けても、損傷を発生させないためには、何枚のEndure Wallもしくは一般的な耐震壁が必要かを検証した。結果、Endure Wallは5枚設置すれば損害を防げ、通常の耐力壁だと22枚配置しなければ損傷が生じることが明らかになり、コストパフォーマンスが高いことも分かった」と述べた。
会場を実験施設に移して行われたEndure Wallの耐震実験では、照井氏が、Endure Wallと通常の耐力壁に、専用の機械で振動を与えた。結果、通常の耐力壁ではクギが曲がるなどの損傷が見られたが、Endure Wallはダメージがなく、優れた耐震性があることを実証した。
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