「東京がデータセンター建設費で世界一、大阪もTOP10入り」ターナー&タウンゼント:データセンター市場動向
ターナー&タウンゼントは、データセンター建築費指数に関するレポートを公表した。アジアでも有数の需要が高い日本では、建設コストランキングでは、東京エリアが世界一となった。電気や空調などでの「労働力逼迫」と、安定的なインフラと免震や耐震の技術によるアジアの中でも有数の高い需要がコストを押し上げている。そのため、適切なコスト管理が求められており、ターナー&タウンゼントでは一括発注型ではなくCM方式が最適と提言する。
英国の建設マネジメント会社のターナー&タウンゼントは2025年11月25日、「データセンター(DC)建築費指数 2025-2026(Data centre construction cost index 2025-2026)」の日本語版を発表した。
レポートは52市場を対象に世界の建設コスト動向を分析し、世界のデータセンター建設コストランキングで東京エリア(USドル15.15/W)と大阪エリア(USドル14.12/W)がいずれも建設費指数のTOP10入りしたことが明らかになった。
拡大するAIデータセンター需要 市場収益は全世界で5275億USドル
レポートによると、世界的に需要が加速しているデータセンターは、常に需要が供給能力を上回り続けていると分析。2025年に世界のデータセンター市場の収益は5275億USドルに達すると予測する。
世界52市場のデータセンター建設のワット単価を分析した結果、2025年の従来型データセンターの建設コストは平均で5.5%上昇。アジア太平洋地域のデータセンター市場は、AIインフラ需要とクラウドサービスでけん引され、力強い成長を維持し、開発パイプラインは約2300MW増加した。
世界的なコスト高、冷却/電力/人材がネックに
建設コスト増の詳細では、従来型の空冷データセンターでは1ワットあたりの建設コストが年平均5.5%のペースで上昇し、液冷システムへの移行が進む米国では7〜10%のプレミアムコストが発生している。今後1〜2年で予定されるプロジェクトの50%以上が高密度/液冷対応環境を前提とし、冷却技術の高度化が急務となっている。
一方で、83%の回答者が「自国のサプライチェーンは冷却技術の普及に追いついていない」と回答。特に電力供給網の脆弱性と冷却部材のローカル調達困難が複合し、「納期通りの建設が困難になる最大の要因は電力確保」とする声が47%となった。それでも73%の関係者が「データセンター市場は不況に強い」とみており、高コスト構造とインフラ課題の狭間にあっても、依然として強気の投資姿勢が維持されている。
日本のDC建設費高騰、労働力不足とアジア有数の高い需要が要因
関東圏/関西圏で進むデータセンター建設のコスト動向では、2020年を起点とした情報では、一般的な建設物件のコスト上昇が約38%の一方、データセンターは約145%の上昇を示している。要因として、日本のデータセンター建設は、機器の多くを海外に依存しており、為替レートの影響を受けやすいことがある。また、高密度サーバを支える冷却や電力系統の設備が標準ビルとは一線を画し、専門技術者の確保も困難を極めている。
他国に比べても建設コストは依然高止まりで、特に「労働力の逼迫」がボトルネックになっている。電気や空調といった専門工種での人材確保は、今後のデータセンター開発全体のペースに直結すると予測している。
また、別の要因でアジア全域の中でも日本に対する需要が高いこともコスト上昇を加速させている。日本が選ばれる理由として、電力や通信、水を含むインフラが安定、テロリスクの低さ、高度な免震や耐震の技術が確立されている点が挙げられる。
DC建設費の上昇には、CM方式のコスト管理が有効
ターナー&タウンゼントの北アジア地区データセンター担当ディレクター パリジェン稔氏は、調査レポートを受け、「建設コストは当面の間、上昇傾向が続く。AI対応データセンターに求められる高密度化や液冷化、電力インフラ強化などの要件が、従来型データセンターよりも複雑化しているため、一定の水準を超えるまではコスト上昇は避けられない」と説明する。
パリジェン氏は「水準を超えた後に自然と下がるのを待つのではなく、その前段階で“建設の進め方そのもの”を見直していく必要がある」とし、コンストラクションマネジメント方式(CM方式)を提案。CM方式は、発注者側に立つマネジメント専門家がコストや工程、品質を包括的に管理する方式で、透明性と全体最適に強みを持つ手法として海外で採用が広がっている。「CM方式は一般的にコストが嵩むイメージを持たれる場合もあるが、総建設費を一括発注型と比較すると、コスト最適化に寄与している」と効果的な選択肢の一つになると強調する。
調査レポートは、世界主要都市を対象に、データセンターの建設コストを「1ワット(W)あたりの米ドル」(USドル/W)で算出。20カ国以上で稼働中または最近完了した300件以上のプロジェクトからベンチマークコストデータを収集し、全コストは米ドルに換算している。建設費データは、シェル・アンド・コア、建築内装・仕上げ、機械電気設備工事、ゼネコン予備費、ゼネコンマージン、機械電気設備のコスト項目別に収集した。
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