南海トラフ地震にどう備えるか? 国の防災DXと企業のBCP作成の要点を内閣府が解説:第7回 国際 建設・測量展(3/3 ページ)
南海トラフ地震や首都直下地震など国難級の災害が迫る中、国は防災DXや官民連携を軸に新たな対策を進めている。CSPI-EXPO2025で内閣府の吉田和史氏が講演し、能登半島地震の教訓や南海トラフの被害想定を踏まえ、新技術と自治体をマッチングさせるプラットフォームや創設準備が進む「防災庁」などの最新動向を紹介した。民間企業には、BCP策定とサプライチェーン全体を見据えた備えを呼びかけた。
防災産業の育成と国際展開
吉田氏は、防災産業の育成にも触れた。近年、日本ではドローンや測量、情報通信などの技術が急速に進化しており、防災分野でも活用の余地はまだまだあるという。
現在、内閣府が整備を進めているのが「防災×テクノロジー官民連携プラットフォーム」だ。地方公共団体と技術を持つ企業をつなぐオンラインのマッチングサイトで、自治体が課題を入力し、企業が解決策を提案する仕組み。既に850以上の自治体が登録し、200件近いマッチングが成立している。
「自治体は技術を求めても、どの企業に頼めばいいかわからない。企業は技術を持っていても、ニーズをつかみきれていない。双方のミスマッチを解消し、新しい技術を防災現場に導入することを目指している」と吉田氏は解説した。
今後は自治体だけでなく、企業防災のニーズも取り込み、官民双方の課題に対応できるプラットフォームへと拡張していく計画だ。国内の防災産業の裾野を広げ、さらには国際市場への展開を視野に入れている。
防災関連の国内市場は既に15.6兆円規模とされ、気候変動で被害が深刻化する東南アジアなどでは、今後も巨大な需要が見込まれている。吉田氏は「世界の防災産業をリードする存在として、日本の技術を積極的に国際展開していきたい」と抱負を口にし、官民協議会の設立や国際会議でのマッチング支援なども進めながら、防災産業の成長を国家戦略として推し進めていく姿勢を明らかにした。
産官学民の司令塔を担う「防災庁」の役割とは?
講演の締めくくりで吉田氏は、現在準備が進む「防災庁」について説明した。南海トラフ地震のような国難級の巨大災害に備えるには、行政だけでなく産官学民が一体となり、戦略的に備える体制が不可欠だ。その司令塔を担うのが防災庁だ。
吉田氏は、防災庁の役割を「3つの司令塔機能」として整理した。1つ目が、中長期的な視点に立って、防災に関する基本的政策/国家戦略の立案を実現する機能。2つ目が、平時に災害リスクをシミュレーションし、事前防災の推進・加速を図るための機能。そして3つ目が、発災時の初動対応から復旧まで、迅速に対応できるよう指揮する機能だ。「防災庁は、司令塔機能のもとで、避難者支援や防災DX、意識啓発、人材育成、防災技術の研究開発/国際展開などを推進していく」(吉田氏)。防災庁は今後、予算や組織体制を固め、2026年度中の設立を目指している。
最後に吉田氏は「災害による被害は備えによって必ず減らせる。行政、企業、地域、国民一人ひとりが役割を果たすことが重要」とし、企業には耐震化や備蓄、BCP策定を進めるよう呼びかけ、講演を締めくくった。
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