空中と地上で飛ぶ、転がる、インキメーカーのDICがなぜ球体型ドローンを開発したか?:Japan Drone 2025(3/3 ページ)
化学メーカーDICは、転がって進み、空へ飛び立つ──そんな新しい動き方をする球体型ドローン「アガモスフィア」を開発した。ドローン業界では異色の存在ともいえる素材メーカーが、製品を通じて社会と直接つながる新方針「Direct to Society」を体現するドローンの機体開発に託した思いとはどのようなものか。
DICがドローン開発にかける思い
DICがドローン分野に関わるきっかけとなったのは、2023年に開発した「ぼよーんガード」だ。ドローンが壁などに衝突しても弾性で跳ね返り、飛行を継続できる特殊なガード材で、長年にわたり培ってきた素材設計や構造解析の技術を応用した。
ドローン開発の方向性をさらに明確に打ち出す契機となったのが、翌2024年にDICが掲げた新たな事業方針「Direct to Society(社会への直接提案)」。DICはガード材の開発から一歩踏み出し、自社で機体そのものを設計・開発する段階へと挑戦を広げた。
これまでDICは、印刷インキや顔料、プラスチック材料といった素材の供給を主軸とし、いわば“縁の下の力持ち"的な存在として産業を支えてきた。しかし、「顧客の要望に応じて材料を提供する」という従来のスタイルでは、エンドユーザーのニーズをリアルタイムに製品へ反映するのが難しかった。
その課題を打開すべく、素材メーカーが製品というかたちで社会に直接価値を届ける──そんな新たな方向性を体現したのが、今回展示された球体型ドローンとなる。ブース担当者も、「アガモスフィアは、Direct to Societyの考え方を具現化する象徴的なプロジェクトの1つ」と語る。
Direct to Societyの取り組みは、現在ドローンにとどまらず、ロボットなど他分野にも広がっている。素材メーカーという枠組みを超えたDICの挑戦は、着実に次のステージへと歩を進めている。
命をつなぐ目として、災害現場での活用を見据えて
DICはアガモスフィアの2026年後半の正式リリースを視野に入れつつ、市場性や活用分野の可能性を精査している。
とりわけ注目しているのが、災害現場での活用だ。ガレキの中を転がりながら進み、障害物を飛び越える機動力は、従来のドローンやロボットにはない強みとなる。ブース担当者は、「“転がる"と“飛ぶ"を両立できる点が最大の特徴だ。人やロボット犬が立ち入れない場所でも探索や救助に貢献できる。“命をつなぐ目"として育てていきたい」と展望を口にした。
今後は、より複雑な地形や過酷な環境でも確実に機能するように、さらなる改良を重ね、実用性の高い製品としての完成を目指す。
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