坂倉準三設計の旧上野市庁舎をホテルに再生 モダニズム建築を現代の宿泊空間へ昇華:プロジェクト
モダニズム建築を代表する建築家・坂倉準三氏が設計し、1964年に三重県伊勢市で完成した旧上野市庁舎がホテルに生まれ変わった。再生を手掛けたのは三重県の建設会社の船谷ホールディングスグループで、設計はMARU。architectureが担当し、市指定文化財の保存と活用を両立させた。
三重県伊勢市に本社を置く総合建設業の船谷ホールディングスグループは2025年5月13日、建築家の坂倉準三氏が設計した伊賀市の市指定文化財「旧上野市庁舎」を再生し、2025年7月21日にスモールブティックホテル「泊船(はくせん)」としてグランドオープンすると発表した。
1960年代の名建築が19室のスモールブティックホテルに
伊賀市に合併する前の上野市には、旧庁舎の敷地内を含め、公民館や中小学校などモダニズム建築を代表する坂倉準三氏の建築群が集積していた。しかし、ほとんどが解体され、後に南庁舎と名称を変えた旧上野市庁舎のみが現存していた。
旧上野市庁舎は、坂倉氏の「建築は生きた人間のためのもの」という建築思想に基づき、伊賀上野城の丘陵、山裾の緑と城下町をつなぐように低層で水平に伸び、市民を見下げるのでなく市民を迎え入れる公共施設として1964年に建てられた。建物の保存と再生が決定した後、2019年には市の有形文化財に指定されている。
再生の設計を手掛けたのは、一級建築士事務所「MARU。architecture(マル アーキテクチャ)」を共同主宰する建築家の高野洋平氏と森田祥子氏。構造設計は構造計画研究所、設備設計はシンフォニアエンジニアリング、環境デザインはdeXen、施工は船谷ホールディングスグループの船谷建設、伊藤工務店、上野ハウス。市民に長らく開かれてきた歴史を持つ市指定文化財の保存と活用を両立し、全19室のスモールブティックホテルに生まれ変わらせた。
計画では、坂倉氏の思想を受け継ぎ、客室の光の取り込み方や空間の余白だけではなく家具も含め、現代にふさわしい滞在空間へと昇華。自然光が降り注ぐ中庭を中心に設計し、東西南北に広がる回廊の先に客室をレイアウト。各客室からは伊賀上野城を望む街並み、古い城下町の風情、周囲の山々など、方角ごとに異なる景観を楽しめる。中でもかつて市政を司った旧市長室を改装したスイートルームは、特別な存在。重厚な歴史を感じさせる空間に上質な寛ぎを加え、ここにしかない滞在体験を提供する。
泊船の所在地は三重県伊賀市上野丸之内116。構造と規模はRC造地上3階建て、延べ床面積約6000平方メートル。
泊船の運営は、明治10(1877)年に創業し、地元三重県で設計・建設・建物管理を中心にさまざまな事業を展開してきた船谷ホールディングスグループが担う。2026年春開業予定の伊賀市中央図書館と同一施設のため、宿泊しながら本と触れ合える。地元の伊賀焼や伝統工芸品の展示、文化イベントも予定しており、単なる滞在を超え、地域文化との豊かな出会いも育む場となる。
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