大林組が見据えるデジタル戦略の現在と未来 BIM生産基盤による“生産DX”:大手ゼネコンの建設DX戦略(3/3 ページ)
大林組は、収益の根幹となる「生産DX」、生産DXを下支えする「全社的DX」、全てのデジタル化とDXを担保する「情報セキュリティの強化」を骨子に、デジタル戦略を展開している。複数の変革とデジタル深化で、挑戦を続ける大林グループのデジタル戦略の現在と未来をセミナーレポートを通して紹介する。
デジタル進化の正道をたどる大林組の建設DX
事業部門のDXに関しては、デジタルツインアプリ「CONNECTIA(コネクティア)」とロボティクスに関連した3Dプリンタによる建築、安全かつ効率的なクレーン作業に寄与するマインガイダンスなどを解説した。
CONNECTIAは、施工段階での3Dデータ共有を目的に開発されたソリューション。人や建機などのデータをクラウド上のデータ連携基盤に格納し、ゲームエンジン上で可視化することで施工の検討ができる。将来は、CONNECTIAをベースに、各種アプリケーションを搭載する計画もある。
3Dプリンタで製作した実証棟「3dpod(スリーディーポッド)」は、セメント系材料を用いた3Dプリンタによる建築物として、国内で初めて建築基準法に基づく国土交通大臣の認定を取得した。地上構造物の全ての部材を3Dプリンタで製作し、壁は現地で直接プリントしている。
マシンガイダンスは、クレーンに取り付けたIoTセンサーとBIMモデルを活用し、クレーン作業を支援する。BIMデータから建設現場の3Dモデルを出力し、センサー情報を連携することで、クレーンオペレーターが現場の状況を詳細に把握できるようにしている。
岡野氏は、「建設業界の人材不足に対応するため、ロボティクス技術の開発は必須だ」と話す。事業部門のDXでは、建設機械の自動/自律運転と遠隔操作の実用化に向けて取り組んでいる。また、安全と品質に関するデジタル化として、MetaMojiが提供する野帳アプリ「eYACHO(イーヤチョウ)」に実装した安全AIソリューション、検査支援システム「GLYPHSHOT(グリフショット)」も採り入れている。
GLYPHSHOTは、大林組が2002年に実用化し、2015年から外販を開始した。鉄筋業者、大林組、管理者の3者間で同一プラットフォームによる検査データを共有し、安全と品質の両面でシームレスな検査体制の実現を目指している。
また、事業部門DXでは、2025年に開催予定の「大阪・関西万博」でのスマートコンストラクションの取り組みについても言及があった。大林組は北東工区を受注し、他の3工区を束ねる統括ゼネコンを担っている。デジタル技術の活用では、夢洲(ゆめしま)プロジェクトで、顔認証による入退管理システムやCCUS(建設キャリアアップシステム)との連携、渋滞予測が可能な工事車両管理システムを導入している。
さらに岡野氏は、革新的デジタル活用の事例として、大林グループの新規事業にも触れた。2023年1月に設立された新会社「Oprizon(オプライゾン)」は大林組と日立ソリューションズの合弁会社で、スマートビル市場のけん引を標ぼうする。2022年9月に立ち上がった「PLiBOT(プライボット)」は、人、企業、ロボットが協働する未来に向けてロボットソリューションを提供していく。
岡野氏は、大林グループが目指すDXを「その場限りでなく、近未来の社会環境と建設のありようを見据えた事業と施策を策定し、デジタル進化の正道をたどるものでなくてはいけない」と説く。
「デジタルありきで、業務フローを再構築することがDXへの近道であり、そのためには時間をかけてでもアナログ起点の業務フローをデジタルフローに変換していく必要がある。未来のあるべき姿に向かって、1歩1歩確実に自ら前進し続けたい」と展望を述べ、講演を終えた。
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