JAXAと鹿島建設が“月面施工”を想定した建機の自律遠隔を実証:建機自動化
JAXAと鹿島建設、芝浦工業大学は、月面環境を想定し、「鹿島西湘実験フィールド」とJAXA相模原キャンパスをつなぎ、建機の自律遠隔施工の実証実験を行った。
鹿島建設、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と芝浦工業大学は、鹿島建設を代表者として2021年から国土交通省の公募事業「宇宙無人建設革新技術開発推進事業」に参画し、研究開発を進めている。
このたび、鹿島建設が神奈川県小田原市に所有する約2ヘクタールの実験場「鹿島西湘実験フィールド」とJAXA相模原キャンパスを結び、自動遠隔建設機械による月面環境での作業を想定した実証実験を行った。その結果、月の北極や南極のクレータ内部など、周囲より低い場所で長い時間日の当たらない“永久陰領域”での施工に必要となる構成技術、要素技術の妥当性を確認した。
自動制御と遠隔操作のハイブリッド施工を実証
鹿島建設は、2009年から建設機械の自動運転を核とした次世代建設生産システム「A4CSEL(クワッドアクセル)」の開発を進め、ダム工事を中心に多数の実工事に適用している。2016年からは、A4CSELをベースに、JAXAや複数の大学と共同で、月面拠点建設の実現と地上での展開を目的とした自動運転と遠隔操作による連携作業の研究開発を進めてきた。
宇宙無人建設の事業では、いままでの成果を発展させ、月面での建設作業を想定した研究開発を行う。具体的には、JAXAがまとめた「国際宇宙探査シナリオ(案)」で検討している月面での推薬(推進剤/燃料)生成に向け、月のクレータ内部などの永久陰に存在するとされる水を含む砂の掘削(水掘削)を想定した作業を地上で実験する。
その目的は、地上と月面での動作の相違を調整する技術と手法の創出で、今回の実機械を用いた地上での実験結果をもとに、仮想空間で精度よく作業を再現する技術を構築できれば月面での作業にも反映させられる。
実験では、JAXA相模原キャンパスを指令拠点とし、3台の遠隔操作用に改造した建設機械(バックホウ2台、クローラダンプ1台)を「鹿島西湘実験フィールド」に配置し、月での水掘削を想定した掘削/運搬シナリオに基づき、自動制御と遠隔操作のハイブリッド施工を実証しました。
今回は、自動運転と遠隔操作で複数の機械を同時に稼働させ、レーザー距離計(LiDAR)を用いたSLAM技術により、周囲環境の地図作成と自己位置の推定をしつつ、月面の永久陰領域などでの作業を想定したシナリオに沿って実施。RTK-GNSSといった測位システム無しで、通信遅延が発生する環境でも、複数の建設機械が土砂の掘削や運搬を効率的に行えたため、月面の永久陰領域での作業に必要となる構成技術や要素技術の妥当性が確認された。
3者は今後、今回の一連の作業を精緻に再現するシミュレーターの開発を進め、実証実験で得られたデータや月面環境データを活用して、月面上での作業を模擬する段階につなげる。一方、今回の実験で測位技術として活用したSLAMは、地球上でも、GNSSが使用できないトンネルや地下工事の自動化に不可欠となる複数機械の同時かつ動的な測位技術として利用できるため、現場に適用していく。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
東大 i-Con学 永谷特任教授が提言する「建機自動化の現在地と、標準プラットフォームの重要性」
ウェブサイトに掲載した記事を印刷しても読みやすいPDF形式の「電子ブックレット」にまとめました。無料のBUILT読者会員に登録することで、ダウンロードすることができます。今回のブックレットは、ロボティクス/建設機械分野で研究を続ける、東京大学大学院 特任教授 永谷圭司氏の建機自動化に関する講演のまとめです。建機自動化の現在地とその先に――【後編】:ゲーム機の様に建機作業ソフトを入れ替える拡張性
キャタピラーと大成建設は、割岩や土砂の掘削・積み込みを自動化する技術開発を進めている。自動化の重要なコア技術と大成建設が位置付けるのが、機体の機構と制御プログラム。あらゆる建機作業を電子化して、家庭用ゲーム機の様にソフトを入れ替えれば、幅広い作業に対応できるという。建機自動化の現在地とその先に――【前編】:CATの自在な拡張性を持つ次世代スマートショベル
キャタピラーと大成建設は、割岩や土砂の掘削・積み込みを自動化する技術開発を進めている。先立つことキャタピラーでは、Next Generation Hexと位置付ける次世代IoTショベルを2017年に発売。同機種の市場投入を機に、これまでの開発方針を転換させて、断続的な機体のフルモデルチェンジから脱し、ガイダンスやアシスト機能などを年次アップデートさせていく、デジタルプラットフォームを構築した。熟練オペレーターに代わる「自動運転ローラ」を鹿島道路が開発、現場適用を立証
鹿島道路は鹿島建設とともに、設計経路を自動的に往復走行し、周囲に走行目標物がない場合や曲線部でも適正パターン(往復距離、ラップ幅)での転圧が可能な自動運転ローラを開発した。東大 永谷氏が語る建機自動化で「できていること・期待されること」、標準プラットフォームの重要性
ここ10年ほど、日本の建設業では就業者数が伸びていない。就業者の年齢構成も高齢化が進んでいる。また、生産性も全産業に比べて低いという実態がある。建設DXのなかでも、建設機械の自動化は、このような状況を変えるためには必要とされている。建機の自動化によって生産性が目に見える形で上がれば、建設業の魅力も高まり、若い就業者が増加するという好循環が期待できる。ライカジオシステムズ、建設機械向け最新GNSS受信機「Leica iCA202」
ライカジオシステムズは、建設機械向け最新GNSS受信機Leica iCON aps200シリーズにLeica iCA202を新しくラインアップに加えた。