「北野建設」社長に聞くー企業風土も含む、IT改革に踏み切った地方建設業のDX戦略【全文公開】:地場の建設会社が手本にしたい建設DX(3/3 ページ)
IT導入は、多くの地方建設会社が必要性を認識つつも戸惑い、仮に採用しても使いこなせず放置してしまうケースをよく耳にする。しかし、長野で創業した地域密着型の地場ゼネコンは、IT全社導入を敢行し、建設業のデジタル変革へ踏み出すことに成功したという。
建設DXの本格化には、外部パートナーの力も欠かせない
2023年4月、北野建設はプロジェクトの第一弾として、全ての従業員にとって「魅力的で働きやすい環境」の実現を目指したコミュニケーションツール導入とリモートワーク制度を完了した。
社内でのIT導入が本格化して、「わずか1年半で、一定の成果を成し遂げられたのは外部の力があってのこと。自社のDX戦略推進本部は規模が小さく、社内のIT人材も限られている。アウトソーシングなしでDXを進めることは考えられないことだった」と北野氏は強調する。
では、なぜ日立ソリューションズが選ばれたのだろうか。北野氏は、外部とのコラボレーションでは、相手が自分たちの課題にどの程度までコミットメント可能かを見極めることがカギだと話す。「コンサルティングだけという会社は結構多く、コンサルティングと導入後の支援の両方をできる会社は限られる。日立ソリューションズは、当社の全体最適化という目的を理解したうえで、導入前のコンサルティングだけでなく、導入後のサポートも提案してもらい、安心して任せられると判断した」。
特に導入後の社員教育の部分で、恩恵を実感している。DXで成果を得るためには、全員がそれに関わることが重要となる。現場にはデジタル技術になじめない人もいて、彼らをいかにサポートするかで、プロジェクトの成功が左右される。「当社のような規模の会社では、今後何をすべきか、優先順位はどうつけるかを判断するのに精いっぱいで、導入後の社員教育や使用支援にまで手が回らないのが現実。日立ソリューションズには、導入後のシステムの再検証を通じて、ボトルネックとなっている箇所や普及しない理由を第三者的立場からデータ化し、その対策を検討してもらって助かっている」(北野氏)。
建設DXは中期的視野を持って投資すべし
北野氏は、これからDXを推進しようと考える中小企業は、中長期的な視野で投資するべきだと提言する。
「目先の効率化ばかりにとらわれていると、優先順位を間違え、導入後すぐに結果が出ず、やめてしまうことにもなりかねない。建設業界は、特に技術者を中心に保守的な人が多いので、新しい施策の浸透までに時間がかかる。だから中期的な視野で計画を進めなければいけない。後は、新しいことへのチャレンジなので、失敗をとがめないことも大切。当社では、もちろん再発防止策は講じるが、失敗の理由を追及するよりも、どうすれば次の成功につながるか前向きに調整していく方針で進めている」
中長期的な視野で展開する、北野建設のDX推進。次は「営業支援システム(SFA:Sales Force Automation)」や「顧客関係管理(CRM:Customer Relationship Management)」、「ロボティックプロセスオートメーション(RPA:Robotic Process Automation)」による現場や営業の業務効率化で「EX(従業員体験)」の向上と、サイバーレジリエンスの強化に着手する。「既に少し動き始めているが、次にデジタルを活用してSFAやCRMなどの営業支援に力を入れていく予定だ。クライアントのパイは限られているので、彼らとのリレーションのデータベースを自ら構築することがポイントになるだろう」(北野氏)。
並行して、BIMやデジタル野帳の活用など、ITベンダーや通信会社などと共同で、最先端技術の実証実験にも積極的に参加し、現場に取り入れていく。
最後に北野氏は、「当社は、モノづくりの企業として、施工レベルの高い建物を作り、防災施設など地域に貢献したい人が集まって仕事をする会社になりたい。そのためには建設DXの力は必要だが、一方でデジタル技術はしょせんデジタル。大事なことは、従業員が居るからこそ会社が存在することだ」と力説。
さらに、「働き手の意思を尊重し、それが正しく機能するシステムや環境があれば人は集まるし、当然ながら品質も上がり、クライアントからの信頼も得られる。そういう好循環をつくるべきで、目先の利益を追いかけて信用を失っては駄目という創業からの理念をブレずに、これからも進んでいきたい」と、他の地方建設会社にも手本となる建設DXで目指す、北野建設の未来の姿を示した。
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