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「BIM Innovation HUB」の発足と「共通BIM環境」の提唱【日本列島BIM改革論:第8回】 日本列島BIM改革論〜建設業界の「危機構造」脱却へのシナリオ〜(8)(3/3 ページ)

これまで日本列島BIM改革論では、日本の建設業界が抱える多様な課題や問題点を挙げてきた。こうした課題の根本的原因は、「つながらないBIM」にある。これは、BIMの仕組みが企業ごとに異なっていることから起きる。まさにこれが、建設業界の「危機構造」の根源的な原因ともいえる。私は日本のBIMがつながるように、「BIM Innovation HUB」を設立するとともに、「共通BIM環境」を提唱する。BIMの最適な環境整備によって、建設業界の危機構造を脱却するための一歩が踏み出せるに違いない。

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「BIM Innovation HUB」の取り組み

 こうした理想を具現化するために、私は「BIM Innovation HUB」を立ち上げた。BIM Innovation HUBは、2023年3月31日に発足を告知し、今は2023年度内の活動開始を目標に準備を進めている。

 BIM Innovation HUBは、非営利団体で“誰でも、誰とでも”、「共通BIM環境」によって、つながる環境の整備を目的としている。将来ビジョンは、設計・施工だけでなく、運用(維持管理)、スマートビルディング、さらにスマートシティーにまでつながる建物/施設の情報基盤の構築を目指している。この部分は連載第7回で説明した英国のTIP:Roadmap to 2030を参考にとりまとめた。 

図6 BIM Innovation HUBのビジョン
図6 BIM Innovation HUBのビジョン 出典:「BIM Innovation HUB」活動告知ページ

 建物は、当然ながら使うために作るものだ。そのため、建物の利用には、用途に応じたサービスが必要であり、施設とサービスのデータを収集/分析し、活用することで、現状のサービスや別の新築建物の設計・施工で最適化が図れるだろう。

 こうしたビジョンは、非営利団体が扱うには壮大なテーマかもしれないが、建物の設計・施工・運用で情報の統合とデジタル化の成果の有効活用を目指すには、あえて、ここまでのビジョンを掲げる必要があると思い至った。これまでにも、多くの方々に協力を得てきたが、さらに協力していただける方を増やし、設計・施工のその先までつながる共通BIM環境の実現まで、地道な活動を続けていくつもりだ。

BIM Innovation HUBが提案する「共通BIM 環境」のメリット

 これまで述べたように、RevitなどのBIMソフトウェアを実務で活用するためには、BIMの仕組みを構築しなければならない。規模の大きい設計事務所やゼネコンでは、下図の左のように、ソフトウェアやPCの導入費用以外に、BIMの仕組み自体の開発や部品(ファミリ)の整備、教育のためのトレーニングテキストの作成などが求められた。さらに、企業ごとのBIMソフトウェア上のアドインツールの開発も欠かせない。

 大企業ではこうしてBIMの導入を行っているが、各社ごとの閉じた仕組みであり、そのままでは他社とつながることはできない。また、バージョンアップなどの対応にも、追われることとなる。

 このようにBIMの導入には、多額の費用と労力をかかるので、各社ともにRevitのネイティブデータを渡して、BIMの仕組み構築までに培ったノウハウや部品(ファミリ)が流出することを恐れている。これが、BIMがつながらない理由の1つである。

 しかし、規模の小さい企業では、本格的にBIM導入することは難しい。BIMやRevitに詳しい社員がもしいれば、可能だし、社員数も少なければ展開が早くなるメリットもあるが、実際にはBIM環境を構築できずに、本格的なBIM導入ができず頓挫(とんざ)してしまうことが少なくない。

図7 共通BIM環境でBIMを導入する場合のメリットのイメージ
図7 共通BIM環境でBIMを導入する場合のメリットのイメージ 提供:BIMプロセスイノベーション

 だが、共通BIM環境のための“共通BIM標準”は、こうした悩みを一度に解決する。BIMの仕組みが同じであれば、仕組み自体が各企業独自のノウハウにはならない。各社の部品(ファミリ)が漏えいする問題については、むしろ部品(ファミリ)が業界内に流通することで、ファミリ整備のコストも抑えられるというメリットにも成り得る。さらに、開発したアドインツールも、共通BIM環境のもとで、外販も可能になるだろう。よくできたアドインツールは、一企業の中で抱え込むべきではない。そもそも、企業同士が、同じようなツールを並列して開発すること自体が無駄で、ソフトウェアのバージョンアップなどの維持費を理由に苦労して開発しても、やがて消えてゆく。

 他にも、メーカーが作成する部品(ファミリ)も、仕組みの違う企業ごとにカスタマイズして提供する必要がなくなるとか、大学でのRevitやBIMプロセス教育なども、共通BIM環境下でトレーニングすれば、企業に就職したときに、少なくともBIMに関しては即戦力となるなど、様々な利益享受が見込まれる。このように、共通BIM環境は、日本の建設業全体がBIMに移行して、メリットを受益するためには必須だと考えている。

図8 共通BIM標準によるシームレスな情報連携のイメージ
図8 共通BIM標準によるシームレスな情報連携のイメージ  提供:BIMプロセスイノベーション

日本の建設業界をBIMで改革するためには?

 これまで、日本列島BIM改革論として、建設業界を取り巻くさまざまな問題点を述べてきた。抜本的な問題解決のために必要なのが、共通BIM環境だと辿(たど)り着き、共通BIM環境を成す共通BIM標準と共通BIMプロセスによって、建設業界の情報基盤を作れるのではないかとの着想を得た。その活動の場が、BIM Innovation HUBとなる。2023年内には活動を本格化させるつもりだが、まずは「Revitの意匠設計におけるBIMの仕組み」を提供する予定だ。応用技術の協力を得て、BooT.one(意匠)のBIMモデル作成基準、プロジェクトテンプレート、共有パラメータ、ファミリテンプレートなどを公開していく。また、BIMの用語の定義/解説、情報コンテナの命名規則、メタ情報の共通化などといったプロセスにかかわる部分に取り組むことも視野に入れている。

 今後、この日本列島改革論は、日本の危機構造を指摘するだけでなく、BIM Innovation HUB の活動を通して、日本の建設業界のBIM改革のための手法についても語ってゆきたい。

著者Profile

伊藤 久晴/Hisaharu Ito

BIMプロセスイノベーション 代表。前職の大和ハウス工業で、BIMの啓発・移行を進め、2021年2月にISO 19650の認証を取得した。2021年3月に同社を退職し、BIMプロセスイノベーションを設立。BIMによるプロセス改革を目指して、BIMについてのコンサル業務を行っている。また、2021年5月からBSIの認定講師として、ISO 19650の教育にも携わる。

近著に「Autodesk Revit公式トレーニングガイド」(2014/日経BP)、「Autodesk Revit公式トレーニングガイド第2版」(共著、2021/日経BP)。

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