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「BIM Innovation HUB」の発足と「共通BIM環境」の提唱【日本列島BIM改革論:第8回】 日本列島BIM改革論〜建設業界の「危機構造」脱却へのシナリオ〜(8)(2/3 ページ)

これまで日本列島BIM改革論では、日本の建設業界が抱える多様な課題や問題点を挙げてきた。こうした課題の根本的原因は、「つながらないBIM」にある。これは、BIMの仕組みが企業ごとに異なっていることから起きる。まさにこれが、建設業界の「危機構造」の根源的な原因ともいえる。私は日本のBIMがつながるように、「BIM Innovation HUB」を設立するとともに、「共通BIM環境」を提唱する。BIMの最適な環境整備によって、建設業界の危機構造を脱却するための一歩が踏み出せるに違いない。

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企業や組織を超える「つながるBIM」

 本来のBIMの価値をもたらす、理想的な「つながるBIM」とは何かを考えてみる。理想的な「つながるBIM」とは、企業や組織、部門が異なっていても、「同じBIMソフト」と「同じBIMの仕組み」で仕事をすることだろう。意匠・構造・設備は、建物としては一体のものだから、それぞれを違うソフトで作るより、同一のソフトで作る方が効率的なのは言うまでもない。同じBIMソフトウェアでつながった状態(リンク)で、設計・施工を行うのが理想であり、現時点ではそれが可能なのがRevitのみ。これにより、設計・施工における情報の主役は「BIMモデル」となり、図面ではなく、「BIMモデルで仕事をする時代」となる。

 異なるBIMソフトウェア間の中間ファイルなどによるデータ連携では、BIMソフトウェアの仕組みが緻密かつ複雑のために、完全なBIMの仕組みを持った構造で受け渡すことはできない。ただし、これは意匠・構造・設備といった設計の基幹となるソフトウェアについてのみに限ったこと。それ以外のツールへの連携については、そもそもRevitの範疇(はんちゅう)ではないために、IFC、COBieなどの中間ファイルやダイレクトリンクによる連携が必要となる(図4)。ここで言うそれ以外のツールは、工程管理ツール、コスト算出ツール、CFDなどの解析ソフト、運用(維持管理)ツールなどが当てはまる。

図4 「つながるBIM」のイメージ
図4 「つながるBIM」のイメージ 提供:BIMプロセスイノベーション

 意匠・構造・設備の設計の基幹となるソフトウェアは、同一のソフトで一緒に業務を行わなければならない。このことは、私の昔からの悲願だった。実現すれば、二重作業を減らし、作業の効率化が実現する。ソフトが違うというのは、言葉が違うのと同じこと。連携のための変換は、言葉の翻訳のようなもので、理想的なシームレスなつながりではない。

 意匠・構造・設備の作業効率化とは、前工程の情報を使って、次工程の作業を効率化すること。例えば、意匠設計が配置した照明器具や衛生機器などのモデルを、設備モデルにリンクした状態でコピーする。設備設計では、そのコピー/リンクされた照明器具や衛生機器などの設備モデルに、ダクトの設置・配管・配線などを行うことで、設備設計を効率化できる。現状は、意匠設計でも設備設計でも、それぞれ照明器具や衛生機器を配置しているが、微妙にズレて配置されている場合が多く、施工段階で調整に手間取ることが多々ある。「コピー・モニタ」は、Revitの機能の1つだが、BIMソフトが違うなどの理由で、有効に活用されていない。

 「BIMのつながり」を実現するために、近年は「Revit MEP」の実用化が進んでいる。設備設計やサブコンなどがRevit MEPを実務で活用することは、単に設備部門のためだけではない。部門や企業の壁を越え、全体最適を実現するための、第一歩となる。Revit MEPの実用化にめどが立った今こそが、「BIMがつながる」契機にあると言えるだろう。

「つながるBIM」を実現する「共通BIM環境」

 こういった日本のBIMの根本的な課題を乗り越えるために、私は「共通BIM環境(Common BIM Environment)」という新たな概念を提案する。

 ISO 19650は、発注者によって指定したBIMの仕組みとプロセスで、プロジェクトを実施し、管理してゆこうという考え方だ。しかし、プロジェクトによって、その都度、異なるBIMの仕組みとプロセスを指定されることは、設計事務所やゼネコンにとって迷惑な話。そこで、BIMの仕組みとプロセスを業界で共通化し、実務の中に浸透させておくことで、“いつでもどこでもBIMがつながる”ことができるようにすべきではないかと考えた。

図5 共通BIM環境
図5 共通BIM環境 出典:「BIM Innovation HUB」活動告知ページ

 共通BIM環境(Common BIM Environment)は、「共通BIM標準(Common BIM Standard)」と「共通BIMプロセス(Common BIM Process)」の2つによって構成される。共通BIM標準は、共通化すべきBIMの仕組みで、LOD(必要情報詳細度)の定義や共通データ環境(CDE)の運用方法も含まれるが、共有リソースとしてRevitなどのBIMソフトウェアの仕組みも定義される。

 また、同じプロセスの中で作業することを前提とした規定が共通BIMプロセス。1つの建物を設計・施工する作業は、共通の仕組みと共通のプロセスによって、BIM本来の価値に辿(たど)り着く。これがISO 19650-2で示されている「情報マネジメントプロセス」に相当する。

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