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インタビュー

BIM先進国の英国に学ぶ「ISO 19650」の真意と「建築安全法」の背景【BIM特別鼎談 Vol.1】BIM先進国の英国に学ぶ(1/3 ページ)

英国は、日本での2023年度からの公共事業のBIM原則適用よりも先行して、2016年に全ての公共工事の調達でBIM Level 2(Full Collaboration:意匠/構造/設備でBIM共有)を義務化した。2018年には英国規格協会のBSIが「ISO 19650」を策定して以降、ここ数年は国内でも大和ハウス工業を皮切りに、ISOの認証取得に挑む企業が増えつつある。BIM本格化を前にして岐路に立つ日本の建設業界にとって、BIM先進国の英国に学ぶことは多いはずだ。

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 米Autodeskでインダストリー&ビジネス戦略部のシニアマネジャーを担当している英国出身のスティーブ・バトラー(Steve Butler)氏が来日したことを受け、建設×ITのWebメディア「BUILT」で「日本列島BIM改革論」を連載中のBIMプロセスイノベーション代表 伊藤久晴氏とともに、英国でのBIM活用の現状やBIMの国際規格「ISO 19650」シリーズ(-1~6)の意義について、日本でのBIM進捗の状況も比較しつつ、深掘りする対談の場を設けた。進行役はBUILT編集部の石原忍。

英国建設業の成長戦略「Construction 2025」の進捗状況とCOVID-19の影響

BUILT編集部 日本のBIM普及にも、長らく関わられているAutodeskのスティーブ・バトラー氏が訪日されましたので、この機にBIMの国際規格ISO 19650発祥の地ともいえる英国でのBIMの現況についてお伺いできればと思います。

 今回は、スティーブさんの友人でもあり、ISO 19650の日本での唯一の認証機関であるBSI(British Standards Institute)グループジャパンで、講義教材の日本対応や認定講師として講義を担当し、ISO 19650の認証や実務導入のコンサルティングなどにも取り組まれているBIMプロセスイノベーション 代表の伊藤久晴氏にもアドバイザーで参加してもらい、BUILT編集部からの質問も交え、鼎談形式で進行させていだきます。

 最初に英国でのBIMの実情についてお聞きします。英国政府は、2013年に建設業の成長戦略として発表した「Construction 2025」で、建物のコストを3分の1削減、工期を半分にする目標を掲げました。2025年は、あと2年に迫っていますが、現在はどこまで進み、果たして実現は可能なのでしょうか?

バトラー氏 英国でのBIMは長い期間を経て、業界の末端まで浸透し、今では複数の方向で進化を遂げているところです。全体的には、Construction 2025で示された戦略のもと、建築、経済の両面で目標のおおむねが具現化されています。まだ、未達成の項目も、2025年またはそれまでに達成するように軌道修正されました。

Construction 2025
Construction 2025(画像クリックでリンク先へ) 出典:GOV.UK
Autodesk インダストリー&ビジネス戦略部 シニアマネジャー スティーブ・バトラー氏
Autodesk インダストリー&ビジネス戦略部 シニアマネジャー スティーブ・バトラー氏 写真は筆者撮影

バトラー氏 具体的に言うと、2013年に英国政府は建設業界の粗付加価値額が、900億ポンドを超えたと明らかにしました。さらに2021年末には、この数字は実質的に1220億ポンドに達しています。このことは、8年間で35%の増加を意味し、Construction 2025の主要目標の1つを見事に達成したといえるでしょう。

 また、Construction 2025では、建設生産高を年率4.3%増加させることも、重要な指針としていました。国家統計局の最新データによると、建設生産高の前年比成長率は7.4%となっており、2025年目標が既に達成されたことを示しています。事実として、2022年第1四半期の建設生産高は、2019年第1四半期に記録したこれまでの最高値を上回り、過去最高を記録しました。

 しかし、2019年末から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による世界的なパンデミックが発生し、その後の資材不足や価格変動など、サプライチェーンの大混乱は誰も予想できなかった。Construction 2025では、全体の建設コストを33%の削減としていましたが、COVID-19の影響で逆に25%以上も増加しています。ただ、政府が多くの危機管理計画を策定して実行したため、今では幸いなことに減少の傾向にあります。

 Construction 2025は、COVID-19のさまざまな災禍を受けたにもかかわらず、詳細かつ効果的な戦略を提供したことで、ISO 19650やUK Construction Playbookなど、他のいくつかのガイドラインのサポートを受け、実現に向けて推進されています。なお、こうした文書は全て、より速く、より効率的に、より持続可能な建物の提供を可能にする上で、BIMの実装は重要であると呼びかけています。コストと無駄を省き、生産性を向上させることができるからです。

 まとめると、英国でのBIMの状況は、全体で良い方向に進んでいるといえるでしょう。

BUILT編集部 英国では、BIMのメリットが顕在化しつつあるようですね。日本ではコストや工期がBIMで削減できるという話はあまり耳にしませんが、なぜでしょうか?


BIMプロセスイノベーション 代表 伊藤久晴氏

伊藤氏 スティーブさんからConstruction 2025の目標が達成されつつあると聞き、うれしく思いました。しかし、日本では、こうした具体的な施策が達成できていません。それは、BIMに対する考え方が根本的に違っているからではないでしょうか。日本では、BIMと言えば、RevitなどのBIMソフトウェアで3次元モデルを作り、3Dモデルを設計・施工で使うだけとの認識が大勢を占めています。

 一方で海外では、BIMは“情報管理するプロセス”として捉えているのが基本。ですが、現時点の日本では「2次元CADの後追い」がBIMの主流です。それだけでは、生産性向上に向けた道筋は見いだせません。その点が英国との大きな差です。コストや工期を削減するためには、BIMのツールを使うだけでは、実現には程遠い。BIMソフトと直接は関係がない情報までを含めた設計・施工に関わる全情報を管理し、そのために最適したプロセスの中で回してゆかねばなりません。実はここで言う情報マネジメントプロセスこそが、ISO 19650なのです。ISO 19650は英国発祥の国際規格なので、Construction 2025にもつながっているのではないでしょうか。

バトラー氏 そうですね。伊藤さんのおっしゃる通り、ISO 19650は、BIMに関連する情報管理の原則と概念、そしてそれを1つのプロジェクトにとどまらず、複数のプロジェクトに統一的かつ一貫した方法で適用する方法について概説しています。これは、特定の作業を行うために、特定のある一定の時間に十分な情報がないといった、今日のプロジェクトで通常直面する課題に対処しようとするものです。

 ISO 19650は、データガバナンスのフレームワークを提供し、デジタル化とデータの整理に取り組んでいます。そして、役割と責任、情報プロトコル、標準、交換方法、マイルストーンを定義し、誰が、どの段階で、何を必要とするかを明確にしており、必要な情報のレベルとその粒度を明記しています。

 英国でBIMは、ISO 19650の基準と紐(ひも)付けて認識されています。ISO 19650に準拠している人は、BIM対応プロジェクトの最も重要な要素は、そのプロジェクトのために保持されているデータ品質にあることを知っています。そのデータは、構想からデジタルO&M(オペレーション&メンテナンス)マニュアル、解体や再利用に至るまで、プロジェクトの全ライフサイクルをカバーするものであるべきです。しかし、全ての情報がBIMの中にあるわけではないという点も重要です。

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