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“発注者”が意識すべきフロントローディング(後編)―ISO 19650にみる情報要求事項【日本列島BIM改革論:第6回】 日本列島BIM改革論〜建設業界の「危機構造」脱却へのシナリオ〜(6)(4/4 ページ)

建設費や工期の削減には、フロントローディングが必須となる。しかし、フロントローディングはBIMソフトを単にツールとして使うだけでは、到底実現できない。では何が必要かと言えば、発注者が自ら情報要求事項のマネジメントを行い、設計変更を起こさない仕組みを作り、意思決定を早期に企図しなければならない。これこそがBIMによる建設生産プロセス全体の改革につながる。今回は、現状の課題を確認したうえで、情報要求事項とそのマネジメント、設計段階でのバーチャルハンドオーバー(VHO)によるデジタルツインによる設計・施工などを解説し、発注者を含めたプロジェクトメンバー全体でどのように実現してゆくかを示したい。

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早期のVHO実現でコストと工期が削減可能に

 まとめとして、情報要求事項のマネジメントなどをベースに、発注者が企図するフロントローディングによる「建設のコストダウン」と「工期の短縮」についても論を進めてみたい。BIMを技術的な側面のツールとして捉えたなら、むしろ建設費も工期も減るどころか増える可能性もある。

 建設費や工期を改善するには、設計変更をなくすことがよいのは誰もが理解している。設計変更が建設業界の長時間労働を生む原因でもある。しかし、2次元CADによる紙ベースでの従来プロセスでは、設計変更をなくすことはできないのも皆知っている。

 では、設計変更を解消するために、BIMの技術を生かし、発注組織・設計事務所・ゼネコン・協力企業・メーカーなどが一体になって、プロセスを変えることはできないだろうか?発注者自身が先頭に立ってプランニングできれば、実現可能なのではと思う。

 その第一歩が、設計変更を減らすために、発注組織が情報要求事項のマネジメントを行い、設計変更を極力減らし、早期にバーチャルハンドオーバー(VHO)を実現することになる。これができるだけでも、これまで追加変更に追従するための人工数や予備費といった無駄が減り、材料のリードタイムも十分に確保できる。これがフロントローディングの効果である。

 次の段階では、フロントローディングの体制ができたうえで、VHOの情報をもとに、プレファブ化やDfMAなどの手法により、「オフサイトコンストラクション」を進めてゆく。現場での作業が少なくなれば、天候に影響されにくくなり、品質や現場での安全性も高まってゆく。


BIMによるコスト削減のイメージ

 実はこうした考え方は、目新しいものではない。英国政府が2013年に発表した「Construction 2025」では、コストで3分の1削減、工期で2分の1削減の目標を掲げている。2021年には中国で、わずか2カ月で11階建てのマンションが建てられたとのニュースが報じられているが、これはまさに英国の掲げている目標をクリアしている。その成功の要因としては、オフサイトコンストラクションであるDfMAの技術が使われているのではと推測される。

 技術的には、こうしたことを実現することは可能だ。ただし、設計事務所やゼネコンだけでなく、発注者を含めた全関係者が意識改革を行い、古い商習慣を打ち破り、協働でモノづくりを行うプロセス改革が不可欠。

 海外では、建物の設計・施工・運用プロセスに関する研究が進んでおり、その成果としてISO 19650が規格化された。日本ではまだ、このプロセスに関する研究が足りていないように感じる。現状のプロセスを調査したうえで、BIMやICTなどの最新技術をプロセスに導入することで、設計変更をなくし、フロントローディングを実現して、生産性を高める技術が駆使できる土壌を作るという研究が必要ではないだろうか?土壌がないのに、目先の技術ばかり作っても、枯れてしまうだけなので、もう少し土壌を作る研究が必要ではないだろうか。

連載バックナンバー:

日本列島BIM改革論〜建設業界の「危機構造」脱却へのシナリオ〜

日本の建設業界が、現状の「危機構造」を認識し、そこをどう乗り越えるのかという議論を始めなければならない。本連載では、伊藤久晴氏がその建設業界の「危機構造」脱却へのシナリオを描いてゆく。

著者Profile

伊藤 久晴/Hisaharu Ito

BIMプロセスイノベーション 代表。前職の大和ハウス工業で、BIMの啓発・移行を進め、2021年2月にISO 19650の認証を取得した。2021年3月に同社を退職し、BIMプロセスイノベーションを設立。BIMによるプロセス改革を目指して、BIMについてのコンサル業務を行っている。また、2021年5月からBSIの認定講師として、ISO 19650の教育にも携わる。

近著に「Autodesk Revit公式トレーニングガイド」(2014/日経BP)、「Autodesk Revit公式トレーニングガイド第2版」(共著、2021/日経BP)。

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