樋門/樋管の予備設計を自動化した建設技術研究所の設計支援システム、Revit連携のパラメータ管理で3次元設計を実現:BIM(1/2 ページ)
樋門/樋管の設計では、複雑な基準との適合性を確保するため、作図やチェックに初期段階からある程度の詳細度での作図、数量算定が必要で、度重なる作図や修正の労力が設計者の負担となっている。建設コンサルタントの建設技術研究所では、形状や基準によるパラメータが多く、複雑に相関する樋門/樋管の予備設計に対し、パラメータ管理を中心にした独自の設計支援システムを構築し、業務効率化に取り組んでいる。
総合建設コンサルタントの建設技術研究所は、米Autodeskの日本法人オートデスクとの共催で「DX時代における建設コンサルタントの3次元設計」をテーマとする技術発表会を2022年8月26日に開催した。
建設技術研究所は、社内生産の効率化・高品質化と、BIM/CIM推進に向け、3次元モデルを用いた設計ワークフローの開発に注力。2021年12月より、河川構造物と橋梁(きょうりょう)を対象にした設計支援システムの社内運用を開始し、実務に役立てている。
発表会では土木業界の現状に触れながら、AutodeskのBIMソフトウェア「Revit」や開発した設計支援システムの特徴をオートデスクと建設技術研究所の双方の視点から語った。
自由にカスタマイズできる「Revit API」で、ユーザーとの密な連携
オートデスク 日本地域営業統括 技術営業本部 建築・土木 ソリューション エンジニア、日下部達哉氏は、「人手不足に悩んでいる建設業界は、小売や製造、医療関係など他の業界と比較しても、1人当たりの労働生産性は低いというデータが出ている」と指摘。これ以上の労働生産性の低下を抑えるためにも、建物に関するあらゆる情報を一元化できるBIMの導入は必須だと力説する。
そのためのツールがBIMソフトウェアのRevitであり、RevitではオリジナルIDを自動生成し、部材や建物の細かな形状などのパラメータを厳密に管理し、他のソフトウェアと連動させられる。さらに、他社のアプリをBIMソフト内に組み込める機能「Revit API」も備える。「Revit APIは、他のベンダーに一部のプログラミングを公開しているため、例えば構造計算のシステムを追加するなど、ユーザーごとに使いやすい形に自由にカスタマイズできるのが特徴」(日下部氏)。
他にも、プログラミング経験のない人でも、容易にアドインを構築可能なプログラムツール「Dynamo」、テキストによるプログラミングでデスクトップ製品をカスタマイズするためのアドイン、クラウドを介してWebブラウザでBIMモデルを共有する「Forge」など、それぞれが連携して建設DXに求められるユーザーそれぞれの業務を最適化する環境を提供している。
しかし、どれだけ多様なシステムを用意しても、全ての現場や全てのユーザーを満足させるのは難しい。だからこそ、ユーザーとのコミュニケーションが重要だと日下部氏は語る。「ディスカッションを通じて、各現場にとって、より使いやすいシステムとしていきたい」と話す。
樋門/樋管の複雑な設計を自動化、パラメトリックモデリングとパラメータ管理
そして、その最たる事例として挙げられるのが、建設技術研究所が開発した樋門/樋管を対象にした3次元設計支援システムだ。
樋門/樋管とは、河川の逆流を防止する門扉のことで、排水や取水の際に堤防を横断する水路のスペースのために設けられるもの。形状が複雑かつ国に決められた基準書の規定によって細かい指定も多く、工種も土木・機械・電気に及ぶため、さまざまな協力会社との綿密な連携は必須となる。
樋門/樋管の設計では、「細かい規定との適合性を確保するため、作図をチェックする人にはかなりの労力と知識求められる。加えて度重なる図面の修正や確認作業も発生するので、アナログの管理では限界を感じていた」と話すのは、同社の国土文化研究所 インフラソリューショングループ 研究員の坂本達俊氏。従来の設計ワークフローでは、2次元図面を人の目で確認し、人の手で情報を引き渡していたため、人為的なミスが起きやすかった。さらに、3次元での設計自体は行っていたものの、あくまで“2次元図面の完成後”に作成しており、データを活用する恩恵を十分に得られていないのが現状だったそうだ。
しかし、2020年から研究開発に着手した建設技術研究所の独自システムであれば、こうした問題が一挙に解決する。設計の初期段階から、作図や各種パラメータをもとに構造物の形状を決めるパラメトリックモデリング、数量算定などを自動化し、各部署間との連携もクラウド上で簡単に行えるようになった。このうち、建設技術研究所の3次元設計で採用しているパラメトリックモデリングは、3Dモデルをパラメータの条件で形状を制御する技術で、同じテンプレートを使って場所によって形状が異なる土木構造物でも、過去データを参照したナレッジマネジメントで対応できる利点があり、そのためにはパラメータの管理が欠かせない。
設計支援システムは、2021年12月から社内運用を実験的に開始しており、現在では管理している樋管設計業務の8割に相当する10案件に適用し、実現場でのシステムの有用性を確かめている。
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