「見えないものを見る」AIとセンシング技術の可能性【土木×AI第12回】:“土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト(12)(2/2 ページ)
連載第12回は、AIとセンシング技術を組み合わせて、肉眼では見えないインフラ構造物の内部を調べる新たな手法について解説します。
赤外線サーモグラフィーは“内部劣化”や“漏水”の検知に有効
構造物の劣化部分については、空隙などの影響のために、周囲と温度の伝わり方が異なり、温度差が発生することがあります。その特徴に着目して、温度分布を可視化する赤外線サーモグラフィーにより、内部欠陥を見つける方法も検討されています。
下左図の温度差がある領域は、下中図で見ると表面的には問題ありません。しかし、打音検査で劣化部が見つかったため、たたき落としたところ、下右図のように内部に欠陥が見つかりました。このように、内部欠陥を検出する方法として赤外線サーモグラフィーは有望であり、特に画像の解析でAIを用いれば、効率的に内部欠陥の検出が可能となることが期待されます。
さらに赤外線サーモグラフィーは、漏水の検知にも有効です。文献6「赤外線カメラによる排水管漏水箇所検知に関する基礎的検討」では、配水管の漏水が有る場合と無い場合の熱画像をAIで分類しています。
下左図の漏水有りの画像では、屈曲部で大きな温度変化が見られますが、漏水のない右図にも温度変化がみられるため、必ずしもその判定は容易ではありません。このような場合でも、AIによって高い精度で判定できています。
橋は、舗装下に鉄筋コンクリートの床版が設置されており、車両などの荷重を支える構造になっているものが一般的です。コンクリート床版の上面に水が入り込み、滞水すると劣化の原因になることが知られています。舗装の上からでは、コンクリート上面の湿潤状態は分かりません。そこで、湿潤状態によって、電磁波レーダの反射が異なることを利用して計測する研究が進められています。
下図は、レーダ計測にAIを適用して、湿潤状態を検出した例です。左図にレーダ計測をもとにAIで推定した湿潤状態が水色で示されています。その周辺の赤枠部分を開削して、湿潤状態を調べたものが右図になります。右図の青数字が湿潤していた箇所です。左図で湿潤と推定された領域の方が、より高い湿潤状態になっています。
インフラ構造物を安全かつ効率的にメンテナンスしていくためには、その内部の状態をよく知る必要があります。打音検査に加え、超音波や赤外線、電磁波などのセンシング結果にAIを適用することで、これまでは見えなかった構造物の内部を調べる技術が大きく進展しています。
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