自然災害を未然に防ぐAI研究 降雨量や斜面崩壊を“LSTM”で予測【土木×AI第10回】:“土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト(10)(1/2 ページ)
連載第10回は、自然災害の被害を未然に防ぐためのAI活用例として、水位や降雨量の予測などの最新研究を紹介します。
AIは、将来予測にも用いられています。自然災害の問題で、AIを用いた予測について考えてみましょう。
河川水位の上昇を機械学習で算定
自然災害への対応では、原因となる気象現象など、予測の精度やタイミングが極めて重要になります。例えば、水害の際に有効な水防活動や避難行動を行うには、河川水位をあらかじめ想定しておくことがカギになります。下図は、大淀川に予測地点を設け、水位上昇を機械学習で算定した事例です※1。ここでは、地図中にある他観測所での過去の観測データを学習に活用することで、高い精度での予測に成功しています。
※1 「スタッキングの適用による河川水位の時系列予測」箱石健太,荒木健,一言正之/AI・データサイエンス論文集1巻J1号p453-458/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2020年
深層学習を将来予測に適用するには、ニューラルネットワークに工夫が必要となります。通常のニューラルネットワークは、下図左のように、“入力”と“出力”を関係付けるものです。将来予測をするには、過去の傾向を踏まえて、将来を推定する必要がありますが、そのままでは、過去の情報を使うことができません。
そこで、中間の「隠れ層」に過去の情報を採り入れることで、時系列の問題にも適用できる「リカレントニューラルネットワーク(RNN:下図右)」が考案されました。なかでもRNNを発展させて、特殊な隠れ層を用いることで長期記憶を導入した「LSTM(Long Short Term Memory)」という手法が最近では活発に用いられています。
LSTMを降雨予測に適用した事例が文献2「LSTMを用いた鹿児島市における集中豪雨イベントの再現」※2です。左図の赤で示した観測点のデータから、黄色の点の降雨量を推定した結果が右図の赤い色の線となります。集中豪雨のピークを完全には再現できていませんが、青色の線で示した数値予報モデルの結果と比べても、遜色のない結果が得られています。
★連載バックナンバー:
本連載では、土木学会 構造工学でのAI活用に関する研究小委員会で副委員長を務める阿部雅人氏が、AIと土木の最新研究をもとに、今後の課題や将来像について考えていきます。
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