「建築の民主化」を掲げるVUILDのデジタル家づくり1棟目が完成、施主向けアプリも提供開始:デジタルファブリケーション(2/2 ページ)
「建築の民主化」を標ぼうするスタートアップのVUILDは、新事業のデジタル家づくりプラットフォーム「Nesting」を用いた1棟目の新築住宅が完成したことを公表した。Nestingには、専用の家づくりアプリが用意され、これまで施主にとって不透明だった見積もりの確認が、自身が仕様を変更するたびにリアルタイムで分かるようになり、思い通りの家づくりが手軽に実現する。
構造部材のキット化で特殊技能は不要、工務店を限定しない
これまで、オーダーメイドの家を作る際は、設計から見積までに半年から1年を要することが多く、その間は家づくりに掛かる費用が分からないリスクを施主側は抱えていた。その点、Nestingでは、独自開発した家づくりアプリを利用することで、1坪や1枚といった細かな単位で、窓の位置から壁の仕上げまで、何を変えればいくら変わるのかが自動算出される。そのため、金額を意識しながら、施主自らの手で試行錯誤しつつ思い通りの家を作り込める。もちろん、ゲーム感覚で設計できるだけでなく、ワークショップ形式でプロの設計士のサポートも受けられる。
また、建築構法のなかには、特殊な設備や資格が無ければ建てられないことも少なくない。Nestingでは、どこにでもある地域材と加工設備を用いて、大空間を可能にする構法を有しているため、どの地域でも建てられる利点がある。さらに構造部材をキット化(ユニット化)して現場に届けることで、工期短縮と工程の単純化が実現し、専用の技能も必要としないために工務店を限定せずに建てられる。
住宅性能に関しては、従来は断熱性能が低いまま機械空調を稼働させてしまい、多くの二酸化炭素を排出してきた。Nestingは予算に応じて環境性能が高い住宅テンプレートを選べるため、性能を上げて消費エネルギーを下げ、さらに発電機と蓄電池を搭載すればオフグリッド住宅も実現する。また、地域の木材を活用することでCO2を固定し、近場のデジタル加工機で地域材を加工すれば輸送時の炭素排出量を最小限に抑え、木材を多用することで炭素貯蓄量を最大化して脱炭素社会にも貢献する。
建築後にも、デジタル製造プロセスで作られたモジュールで柱が一本も落ちない大空間が構成されるため、増改築や転用も容易に行える利点がある。
「建築の民主化」という社会変革に挑むVUILDは、「(これまでは)OSやプラットフォームの構築(加工機のShopBotやクラウドプレカットサービスのEMARF)から地道にやってきたが、ついに住宅(Nesting)というコンテンツを発する段階にまで来た。2022年春には現在プロトタイピングを行っている複数のテンプレート開発が完了し、Nestingが本格稼働する予定」と展望を示す。
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