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インタビュー

「デジファブで建築の民主化を」VUILD秋吉代表が拓く建築ファブの夜明け【前編】──建築産業構造の突破口へニューノーマルを生きる建築のRe-build(1)(1/4 ページ)

DIYの下地が無い日本でも欧米に遅れること、都市の中で市民誰もがモノづくりを行える工房「FabLab(ファブラボ)」が各地に開設されてから数年が経つ。建築の領域では、マテリアルを切削や積層して形づくる3Dプリンタが、ゼネコンを中心に研究されているが、業界の裾野まで浸透するには、海外とは異なり法令規制など幾多の課題が立ち塞がっているため、まだ時間を要するだろう。しかし、デジファブによって、建築の産業構造そのものを脱構築し、建築モノづくりの手を市井の人に取り戻そうとする意欲的な建築家 秋吉浩気氏が現れた。

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 “デジタルファブリケーション”の語源を遡ると、マサチューセッツ工科大学(MIT) ビット・アンド・アトムズセンター所長 ニール・ガーシェンフェルド氏が著した「ものづくり革命ーパーソナル・ファブリケーションの夜明け(Fab:the Coming Revolution on Your Desktop--from Personal Computers to Personal Fabrication)」に行き着く。本書では、電子計算機がPCにとって代わったかの如く、工作機器も小型かつ安価になり、いずれはパーソナルなものとして各家庭に広く普及すると予言している。

 国内の建築/土木の市場でも、3Dプリンタでセメントをマテリアル(出力素材)にして積層していき、RCの家や橋を作る試みをはじめ、切削タイプのロボットアームで部材を3次元に加工するといった先端技術の研究は、大手ゼネコンを中心に進んではいるが、業界の末端まで、または市民権を得るまで、パーソナルに浸透させるという意味では、まだ遠い未来の話と言わざるを得ない。

 しかし、これまでとは全く異なるアプローチから、デジタルテクノロジーで建築産業そのものの構造変革を志す気鋭の建築家が現れた。建築テック系スタートアップの設計集団「VUILD」だ。VUILD 代表取締役CEO 秋吉浩気氏は、「専門家でなくても誰もが設計者となり、自分の望んだ暮らしを創っていける“建築の民主化”」を標榜(ひょうぼう)し、デジファブで建築のバリューチェーン全体に化学反応を起こし、中央集権化している産業構造の突破口になることを目指している。

 VUILDはこれまでに、SDレビュー 入選(2018、2019)、Under 35 Architects exhibition Gold Medal賞(2019)など、有望な若手建築家に与えられる数々の賞を受賞してきた。誰もが予期しなかった新型コロナウイルス感染症の拡大によって、社会構造に大きなうねりが起きている今、ニューノーマルに求められる新たな建築の在り方を導く存在として、業界内外から熱い視線が注がれている。

 この機会に、2020年9月30日までオンラインで開催中のアイティメディア主催ヴァーチャル展示会「ITmedia Virtual EXPO 2020 秋」内の「Building × IT EXPO」で、基調講演としてVUILDを率いる代表取締役CEO 秋吉浩気氏に登壇していただいた。講演動画「デジファブで実現する“withコロナ時代”の建築モノづくり」で、with/afterコロナ時代の建築ものづくりがどのような姿であるべきか、2020年5月にリリースした在宅での建築ものづくりを実現する日本初のクラウドプレカットサービス「EMARF 3.0(エマーフ 3.0)」の解説とともに、語ってもらっている。

ITmedia Virtual EXPO 2020 秋「Building × IT EXPO」【9月30日迄 開催中】


基調講演:
『デジファブで実現する“withコロナ時代”の建築モノづくり』

 現場第一主義が根強く、働き方や新技術などの変革が難しいとされる建設業界――。だがそのような状況下にあって、デジタルファブリケーションで建築の常識を根本から覆そうとするスタートアップ企業に、業界内外からの注目が集まっている。

 有望な若手建築家に与えられる数々の賞を受賞した、秋吉浩気氏率いる建築家集団「VUILD」がそれだ。2020年5月には、在宅での建築モノづくりをコンセプトにした「EMARF 3.0」を発表。まさにいま必要とされるwith/afterコロナ時代の新たな建築手法を提示している。本講演では、既存建築の殻を破るVUILDの果敢な挑戦を、秋吉氏自身が紹介する。

   << 本EXPOの配信は2020年9月30日で終了しました >>

 EMARFの具体的なサービス概要や将来ビジョンについては、「Building × IT EXPO」の基調講演に譲るとして、本稿ではそのイントロダクションに代えて、VUILD立ち上げまでのいきさつやデジタルファブリケーションの核となる木工CNCルーター「ShopBot」で生まれた作品群について、建築家・秋吉浩気氏にインタビューした。








秋吉 浩気 / Koki Akiyoshi 1988年大阪府生まれ。芝浦工業大学 工学部 建築学科を卒業後、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 X-DESIGN領域でデジタルファブリケーションを専攻。2017年にVUILDを創業し、「ShopBot」「EMARF」「VUILD ARCHITECTS」事業を展開する。主な受賞歴は、SDレビュー入選 (2018)、ウッドデザイン賞 優秀賞(林野庁長官賞)(2018)、SDレビュー入選 (2019)、Under 35 Architects exhibition Gold Medal賞 (2019)。                 撮影:村田卓也

 VUILDの原点は、秋吉氏が芝浦工業大学 工学部 建築学科で建築設計を学んでいく中で、世界には市民工房として、ファブリケーションラボ(ファブラボ)が多く存在し、その活動に興味を惹(ひ)かれたのが最初の契機となった。

 海外のファブラボでは、専門家と一般市民とが線引きされずに、生活をともにして、モノ作りを行っている。「両者をつなぐコミュニケーションの手段で、デジタルファブリケーションという、まだ建築の領域では誰も踏み込んでいないツールがあることに気付いた。ちょうど大学後の進路を考えていた時期と重なり、当時はまだ誰も踏み込んだことのない領域だったことで、国内でデジファブのパイオニアになることを目標に定めた」。

 その後、進学したデジタルファブリケーションで先駆的な慶應義塾大学 田中浩也研究室では、民間企業とコラボレーションし、デジタルファブリケーションや生産/製造システムの研究に携わった。そうした中、あるとき、研究室に導入されたのが、VUILDの根幹を成す米国製の木工用加工機(CNCルーター)「ShopBot(ショップボット)」だった。

 ShopBotは、オープンソースのため、自分でカスタムしたり、他人とデータをシェアしたりできることが、秋吉氏にとっては他の工作機には無い魅力に映った。国内にも1980年代頃から同種の加工機は存在するが、ソフトウェアが別途必要であったり、オリジナルデータに対応していなかったり、CGデータをダイレクトに入力できない、加工する箇所の座標を手入力しなかればならないなど、ノウハウや経験が無かれば操作できない機種が少なくなかった。

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