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木質構造建築物の多様性と可能性:CLTの導入によって拓かれる未来木の未来と可能性 ―素材・構法の発展と文化―(3)(3/3 ページ)

本連載では、一級建築士事務所 鍋野友哉アトリエ/TMYAを主宰する一級建築士の鍋野友哉氏が、近年環境に優しいなどの理由で関心を集める木材にスポットライトを当て、国内と世界における木造建築の歴史や最新の木造建築事例、木材を用いた構法などを紹介する。連載第3回となる今回は、CLTの活用事例を採り上げる。

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木の彫刻的な空間を目指したCLT階段

 また、愛媛県で2016年に竣工した事務所建築物「カネシロ社屋」(写真3-1,2)では、1階の事務スペース部分に最大10メートルスパンの空間を設置し、1〜3階には吹抜け空間にそびえるシンボリックなCLT階段を作り出しました。


写真3-1 「カネシロ社屋」の外観

 カネシロ社屋のプロジェクトでは、愛媛県産材のスギCLTを用いることやそのCLTの良さが分かりやすい建物にすることが求められました。さらに、平面計画は、1階に事務スペース、2〜3階に会議室や応接室などの諸室を設けるプランで、1階の事務スペースでは大スパンが求められました。

 2階の会議室や3階の社長室から敷地内の作業スペースを眺めたいというニーズもありましたが、必要な車路の設置など1階の設計的な問題で要望に応えることが難しい状況でした。解決策として、1階の事務スペースにおける大スパンと2〜3階の境界部分をCLTプラットフォームとし、2〜3階の通り芯を1階に対して角度を付けることとしました。加えて、CLTを来訪者に披露するため、建物の1〜3階を結び付ける階段にCLTを使用して、建築物全体のシンボルとなるように、建築物の中心に持ってくる平面計画としました。

 1階事務スペースの大スパンを実現するにあたっては、当初まだ告示が出される以前で、CLT自体に曲げ荷重を負担させることができなかったこともあり、鉄骨製の梁(はり)をCLTの上に配する地伏梁として採用することとしました。結果、1階事務スペースの大スパンにおける構成は、下から順に、階柱頭部にある頭つなぎ梁、CLT、CLTプラットフォーム、2階の鉄骨梁(地伏梁)、壁の下地材としての土台となりました。

 シンボルとなる階段(写真3-2)は、スギCLTを意匠上でも効果的に使うため、木口(製材された木材の切断面)をデザイン的に表現したCLTで作った高さ約9.5メートル・厚み150ミリの壁柱に、同じく150ミリ厚のCLT段板が刺さっているストリップ階段としました。


写真3-2 「カネシロ社屋」の内観 CLTを用いた3層吹き抜けの階段

 この階段は、段板の隙間から光が差し込み、木の彫刻的な空間となることを目指しました。そして、CLT壁柱の垂直性を際立たせるために、吹き抜けに面する垂れ壁と腰壁部分は、CLT構成ラミナと同じ30ミリ厚のスギ材による水平ルーバーを2階の床板CLTと並べて利用しました。これは階段に用いた大板CLTの垂直性を目立たせる視覚効果を狙ったものです。

水平力・鉛直力を負担する壁にCLTを用いて設計した個人住宅

 上記における3つの建築物は、全てCLT告示が出る前に確認申請を行い進めたプロジェクトですが、法的にはCLT部分の利用として、現在も有効な活用法です。

 CLTという素材を意匠的に考えると、その断面が他の木質系材料にない特徴を持っています。例えば、同じ「ラミナ」を用いて製造される集成材では、全ての層が同じ軸方向にそろえて接着されるので、年輪が見える木口断面が通常は視認できません。つまり、建築物として完成した段階でこの木口断面を可視化することが可能な構造部材は、製材を含む木質材料の中でも現在ではCLTだけです。

 もちろん、木の木口は水を吸いやすいなどの性質があるため、雨がかかる外部に露出することは避けるべきではありますが、断面を意匠的に見せることで、木の量塊感を示す事ができて、素材の特徴を生かす一つの方法になると思います。

 また、東京都の個人住宅「木育の家」(写真4-1,2)では、CLT告示を使い、水平力・鉛直力を負担する壁にCLTを用いた設計としました。木育の家は、燃え代設計※1 を使用すると、CLTの断面が大きくなりすぎてコストがかなりかかってしまうことが判明したため、外部は在来工法の壁とし、内部にCLT壁を十字で配置して、これを現す計画にしました。

※1 燃え代設計:木製の柱・梁について、火災時に燃えるであろう厚みを事前に構造上必要な断面に付加する手法


写真4-1 「木育の家」の外観

写真4-2 「木育の家」の内観

 CLTといえば、割と中高層建築物の構造部材として用いるものと一般的には捉えられがちですが、都市型住宅を建築する時においても、十分にその素材が持つ長所を生かす建築物とすることができるのであれば、採用を検討する価値はあると考えています。

 新しい素材が生まれれば、それを最もうまく活用しようと考えることで、自ずと新しい構法・カタチが産まれてきます。そして、まだまだCLTを使用したさらなる展開の可能性があります。日本国内でもCLTの製造や流通環境は今後さらに整ってきますので、より使いやすい建築材料となってくると思います。その際は、「どのように使えばその素材の良さをより引き出せるか」という点から、建築計画を考えていく視点も大切です。

 次回は、国内外の最新事例に触れつつ、木造の未来について考えていきたいと思います。

著者Profile

鍋野 友哉/Tomoya Nabeno

建築家。一級建築士事務所 鍋野友哉アトリエ/TMYA主宰。東京大学 農学部 木質材料学研究室を卒業、同大学院修了。東京大学 客員研究員(2007〜2008)、法政大学 兼任講師(2012〜)、お茶の水女子大学 非常勤講師(2015〜)、自然公園等施設技術指針検討委員(2015〜2018)。これまでにグッドデザイン賞、土木学会デザイン賞、木材活用コンクール 優秀賞などを受賞。

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