検索
連載

発注者のニーズを知り、要求条件をまとめる(上)−利用者満足度調査・POEとは−いまさら聞けない建築関係者のためのFM入門(11)(3/3 ページ)

本連載は、「建築関係者のためのFM入門」と題し、日本ファシリティマネジメント協会 専務理事 成田一郎氏が、ファシリティマネジメント(FM)に関して多角的な視点から、建築関係者に向けてFMの現在地と未来について明らかにしていく。今回は、FMを実践する上では欠かせない手法「POE」について、その重要性を説く。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

インタビューの結果から

 ゲーム感覚で1時間ほど傾聴すると、その方の考えが見事に浮き出てくる。こちら側からの質問項目は基本的には準備しない。カードを一対比較したときのその違いの意見が質問項目になる。このような方法で、組織の経営者や関係者、利用者にバランスよくインタビューすると、その組織が本当に求めているものが見えてくる。インタビュー結果は、一項目も落とさず発言した言葉通りに素直に書き留める。そこには決して、自分たちが提案しようとしているソリューションなどは記載しない。利用者のニーズを分かりやすく一覧表にして報告書にまとめる。それを顧客にも、詳細を説明して情報共有する。

 時々、「人の意見に耳を傾けると、その通りにしなければいけないから聞かない方がよい」や「先にソリューションを提案する方が早い解決策だ」という人がいる。そのような人は、体調を壊して病院に行って、何も言わずに手術を受けるのだろうか。意見を受け止めるというのは、必ずしも発言に従うということではなく、そこでの問題点や課題を知るということである。

 この手法は、インタビューすることで顧客の満足度も向上し、課題やこれから進むべき方向も見えてくる。設計や施工後に、無駄な作業や手戻りも少なくなり、ユーザーとサプライヤーで共通かつ最適なゴールを目指して進むことができる。しかし、現状は話を聞かないために、日本中で無駄な設計作業をしているのではないかと感じている。たかが聴くだけでと思われるかもしれないが、この聴くということが、後々のプロジェクトの出来具合と時間を大きく左右する。

 私はこの手法をコンサルとして20年以上実践し、2000人以上の方にインタビューしたが、今も関係者で実践しており、その有効性は時代を超えて通用すると確信している。


一対比較インタビュー法は道しるべ

まず人の話を聴いてみよう

 私の経験してきた手法を紹介したが、POEは手法うんぬんするより、まず実施することが大切である。アンケートでもインタビューでも、できるだけ素直に、利用者や現場の声を聴いてフィードバックしていくことが重要である。

 FMの基本は、現状の「ファシリティの状況」を把握することだが、もう一つの現状は、「人(利用者・経営者など)のニーズ・満足度」を知ることにある。POEの実践はその第一歩に他ならない。そこにはさまざまなニーズと知恵が存在する。それを知らずして、FMの実践には至らない。

 かつて今から20年以上前に、世界銀行のコンペで分厚いPOEの結果が要求条件として示された際、日本の設計者は驚くと同時に、取り扱いに困ったというエピソードがある。日本の設計コンペでもPOEの結果が提示される例も見られるようになってきたが、POEをもっと有効活用し、発注者、利用者、建築関係者にとって、満足度向上、品質向上、時間短縮などがもたらされることを期待している。

著者Profile

成田 一郎/Ichirou Narita

2011年7月、社団法人日本ファシリティマネジメント推進協会(現:公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会:JFMA)常務理事兼事務局長に就任。2016年6月には日本ファシリティマネジメント協会 専務理事に就任し、現在に至る。

一級建築士。認定ファシリティマネジャー。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る