【最終回】建物の長期使用「SDGs」を取り巻く、会計学と税法上の諸問題を解消する“価格構造メソッド”:建物の大規模修繕工事に対応できない会計学と税法(7)(3/3 ページ)
本連載では、建物の大規模修繕工事で生じる会計学や税法上の問題点やその解決策を千葉商科大学 専任講師 土屋清人氏(租税訴訟学会 常任理事)が分かりやすくレクチャーする。最終回の第7回は、価格構造メソッドを取り巻く法律関係で押さえておきたいポイントを解説する。
適正手続保障と価格構造メソッド
もし税務調査で問題が発生した場合は、適正手続保障を思い出し、冷静に対応すべきである。憲法31条で「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」と定められている。また憲法32条では「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない」と明文化されている。山下清兵衛 弁護士は『法律家のための行政手続ハンドブック』(2019/ぎょうせい)で、憲法31条の「“自由”の中には、財産権行使の自由も含まれる」と論じている。更に、「憲法31条の適正手続保障は、税務調査などの行政調査のための事業所得等への立入り調査等にも準用される」と述べている。
これを踏まえ、憲法31条の適正手続で重要なのが「告知と聴聞」であると記述している。税務調査は、行政法の範疇(はんちゅう)で行われるものだが、多くの納税者はこのことを知らない。つまり、「告知と聴聞」のために、理論武装をしておくことが重要なのだ。
建物の償却に関して税法上の問題があるため、価格構造メソッドという論理的な発想は生まれた。税法上の問題とは、大規模修繕工事を行うと一部除却ができずに架空資産問題や不必要な税金問題が発生、また、資本的支出の変更による大規模修繕工事の資金調達への悪影響などである。簡単に言えば、持続可能な建物を阻害させる社会的問題なのだ。
この社会問題を解決のために、コストプラス法の問題点、ISOの定義などさまざまな学問分野の知識を組み合わせ生まれたのが価格構造メソッドである。結論としては、価格構造メソッドを法律で縛ることは、社会的問題を放置することに他ならない。
おわりに――
持続可能な社会構築を目指すわが国にとって、建物は重要な社会経済の拠点であるため、この資産の価値を維持しながら、末永く使用し続けることが求められる。建物を長期間使用し続けるためには、定期的な大規模修繕工事が必要不可欠であるが、一部除却という会計処理が困難なため、架空資産問題が発生し、それが不必要な税金問題へと連鎖している。同時に、一部除却が実行できないことは、大規模修繕工事に必要な資金調達を阻害させることになる。
価格構造メソッドは、建物の取得原価の半分を15年で償却することが可能なため、先のさまざまな問題の多くを解消するものである。しかし日々、全国紙の紙面などでは、SDGsの推進が謳(うた)われているが、建物の長期使用に関する会計・税務の問題点が一切取り扱われていない点を見て、まだまだ自分の力量のなさに虚(むな)しさを感じる次第である。
著者Profile
土屋 清人/Kiyoto Tsuchiya
千葉商科大学 商経学部 専任講師。千葉商科大学大学院 商学研究科 兼担。千葉商科大学会計大学院 兼担。博士(政策研究)。
租税訴訟で納税者の権利を守ることを目的とした、日弁連や東京三会らによって構成される租税訴訟学会では、常任理事を務める。これまでに「産業経理」「企業会計」「税務弘報」といった論文を多数作成しており、「建物の架空資産と工事内訳書との関連性」という論文では日本経営管理協会 協会賞を受賞。
主な著書は、「持続可能な建物価格戦略」(2020/中央経済社)、「建物の一部除却会計論」(2015/中央経済社)、「地震リスク対策 建物の耐震改修・除却法」(2009/共著・中央経済社)など。
★連載バックナンバー:
『建物の大規模修繕工事に対応できない会計学と税法』
/2101/22/news013_2.html
■第6回:「建物の利益付け替えを行う“価格構造メソッド”の手法」
■第5回:「建設会社の役割とは、顧客に快楽を与えることである」
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